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 12月15日の百物語
 
  
 山の中のネコの家
 
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  むかしむかし、ネコ好きのおばあさんが、一匹の三毛ネコをもらいました。ネコは年を取って尻尾の先が分かれる様になると化けネコになるというので、おばあさんは三年毎に区切って飼う事にしました。
 
 初めの三年間があっと言う間に過ぎて、三毛ネコはすっかりおばあさんになつきました。
 そこでまた三年間飼う事にして、自分の子どもの様に可愛がりました。
 六年たっても尻尾の先が分かれていないので、おばあさんはもう三年間飼う事にしました。
 そして九年が過ぎると、さすがにネコも年を取って元気がなくなり、尻尾の先が分かれてきました。
 そこでおばあさんもあきらめて、ネコを手放す事にしました。
 「こんな事になって、ごめんね」
 おばあさんはネコの為に赤飯を炊いて食べさせ、ネコが大好物の煮干しの包みを首にかけてやりました。
 家を出たネコは名残おしそうに何度も立ち止まっては振り返りましたが、やがて姿を消しました。
 
 ネコと別れてから、おばあさんはさみしくてたまりません。
 別れたネコの事を思うと、新しいネコを飼う気にはなりません。
 そして何年か過ぎた頃、おばあさんは一人で、お遍路(おへんろ→空海というお坊さんが修行した、四国の八十八箇所を巡る旅)の旅に出ました。
 
 そのお遍路の途中、おばあさんは山で迷ってしまい、帰り道が分からなくなったのです。
 行けども行けども深い森が続き、辺りがだんだん暗くなってきました。
 (困った事に、なったねえ)
 おばあさんはお腹が空きましたが、食べる物はありません。
 (このままここで、のたれ死にかねえ)
 その時、向こうに小さな明かりが見えたのです。
 (こんな山の中に、どうして家が)
 おばあさんは不思議に思いましたが、とにかく明かりの方へ行ってみました。
 家に近づくと、一人の女の人が風呂場のかまどにまきをくべていました。
 おばあさんは、その女の人に声をかけました。
 「あの、道に迷って困っています。今夜一晩、泊めてもらえませんか?」
 すると女の人は顔をあげたとたん、うれしそうに言いました。
 「あら、まあ! これは、なつかしい。おばあさん。わたしは、おばあさんの家にいた三毛ネコですよ」
 「??? ・・・三毛ネコ? なに! お前が、あの三毛ネコだって?!」
 よくよく女の人の顔を見てみると、なんと自分の可愛がっていたネコにそっくりではありませんか。
 「本当だ。どこへ行ったのかと心配していたが、無事で何より。ところで、この家には誰が住んでいるんだい?」
 おばあさんが尋ねると、ネコは急にまじめな顔になって言いました。
 「ここは、恐ろしいネコの家です。
 ネコは年を取って尻尾の先が分かれる様になると、みんなここへやって来るのです。
 どのネコも化ける事が出来て、人間を見つけると食い殺してしまいます。
 せっかく会えたのに残念ですが、みんなに見つからないうちに早く逃げてください」
 「なんと・・・」
 話を聞いたおばあさんは、青くなって震え出しました。
 「おばあさんはわたしを、とても可愛がってくれました。
 だからわたしは、何とかおばあさんを助けたいのです。
 わたしが案内しますから、ついて来てください」
 そう言っているうちにも、
 「ニャーオン、ニャーオン」
 と、不気味なネコの鳴き声が近づいてきました。
 「ささっ、急いで!」
 ネコはおばあさんの手を取ると、鳴き声とは反対の方へ駆け出します。
 しばらく行くと、大きな竹やぶの前に出ました。
 するとネコが立ち止まって、おばあさんに言いました。
 「この竹やぶを真っ直ぐ抜けると、道があります。その道を下って行けば、村へ出られます」
 「ありがとう」
 おばあさんはお礼を言って、竹やぶに飛び込みました。
 するとネコが言った様に竹やぶの向こうに道があったので、おばあさんは無事に下の村までたどり着く事が出来たそうです。
 おしまい   
 
 
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