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 1月27日の百物語
 
  
 退治された雪女
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  むかしむかし、ある雪の降る夜の事。若い侍が町の見回りに行くと、道ばたに赤ちゃんを抱いた女の人が立っていました。
 不思議に思った侍は、その女の人に声をかけました。
 「そこの女。こんな時間に、こんな所で何をしておる?」
 すると女の人が、侍のそばへやって来て言いました。
 「はい。実は大切な物を、雪の中に落としてしまいました。あの、探してくる間、この子を抱いていては下さいませんか?」
 女の人はそう言うと、赤ちゃんを侍に渡して雪の中に消えてしまいました。
 
 侍は雪の中でじっと待ちましたが、女の人はいつまでたっても戻ってきません。
 (おそいな。・・・おや?)
 不思議な事に、抱いている赤ちゃんがどんどんと重くなり、さらに氷の様に冷たくなってきたのです。
 (これは、どうした事だ!?)
 気味が悪くなった侍は赤ちゃんをはなそうとしましたが、なぜか体が動かず、声を出す事も出来ません。
 寒さに凍えた侍は、そのまま倒れてしまいました。
 やがて、いつまでも帰って来ない侍を心配した仲間が探しに来てみると、侍は大きなつららを抱いたまま気を失っていたのです。
 
 それから数日後の雪の降る夜、夜回りのおじいさんが、ひょうし木を叩きながら、
 「火の用心!」
 と、歩いていると、根元が雪に埋まった松の木のところに女の人が座っていて、長い髪の毛をくしでとかしていました。
 不思議に思ったおじいさんが、女の人に声をかけました。
 「お前さん。どうしてこんな夜中に」
 そのとたん、女の人が顔をあげました。
 何とその顔は、目も鼻もないのっぺらぼうだったのです。
 「ヒェーーッ!」
 驚いたおじいさんは、雪の中をはうようにして家に逃げ帰りました。
 そして家に戻ってからも体の震えが止まらず、おじいさんはそのまま熱を出して寝込んでしまいました。
 
 さあ、この侍とおじいさんの話しが町に広まると、
 「その女はきっと、雪女に違いない」
 と、町の人たちは日が暮れると、誰も外へ出なくなりました。
 そこで腕自慢のご家老が、自分で雪女退治に出かけたのです。
 
 「たかが雪女を怖がるとは、なさけない」
 ご家老は毎日の様に町中を見回りますが、雪女はなかなか姿を現しません。
 「うーむ。雪女というくらいだから、雪が好きに違いあるまい。
 さいわいにも、今夜は雪だ。
 今夜こそ、現れるであろう」
 ご家老は暗くなるのを待って、屋敷を出ました。
 そして町を一周して、再び屋敷の近くまで戻って来た時です。
 ふと前を見ると小さな小坊主が、ぴょんぴょんとはねる様な足取りで歩いています。
 「これ、それで何をしておる?」
 ご家老が声をかけると小坊主はさっと駆け出して、少しして立ち止まると、
 (はやく、捕まえに来い)
 と、ばかりに、後ろを振り返ります。
 「馬鹿にしおって!」
 ご家老は立ち止まると見せかけて、いきなり小坊主の肩をつかみました。
 すると小坊主の体がどんどん大きくなっていき、ご家老と同じぐらいの大きさになったのです。
 「なんと!」
 ご家老が驚いて手を放すと、小坊主はさらに大きくなって、ついに家よりも大きくなりました。
 「おのれ! 武士をぐろうするとは、許さん!」
 ご家老は腰の刀を抜くと、小坊主めがけて斬り付けました。
 「うぎゃーー!」
 小坊主は鋭い悲鳴とともに氷の様に砕け散り、そのまま消えてしまいました。
 刀をおさめたご家老が、首をひねりながら言いました。
 「まさか、さっきのが雪女とは思えぬが・・・」
 
 しかしそれっきり、雪女は現れなかったそうです。
 おしまい   
 
 
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