1月28日の小話
とおれ
   虚無僧(こむそう→深あみ笠をかぶり、首にけさをかけ、刀を持ち、尺八をふく姿が特徴の旅の僧)が、家の前に立って、尺八(しゃくはち→管長一尺八寸(約54.5p)の竹製の縦笛)をふいています。
   家の中から、あるじが、
  「通れ」
  と、いいました。
   あるじは、銭はやれぬ、となりへ行けというつもりで、いったのですが、
  「しからば、ごめん」
   虚無僧は、敷居(しきい)をまたいで、ずっと入ってきました。
  「これ、通れというのに」
  「しからば、ごめん」
   虚無僧は、げたのままで、ざしきへあがってきました。
   あるじはおどろいて、
  「通れというておるのに!」
  と、きつい声でいいました。
  「しからば、ごめん」
   虚無僧は、ずかずかとざしきを通りぬけていきます。
   あるじはあきれかえって、
  「えい。こいつ、耳がきないのか。通りゃがれ! 通りゃがれ!」
  と、どなりつけました。
   すると、虚無僧は、
  「しからば、ごめん、ごめん」
と、いって、裏口から出ていったそうでございます。
おしまい