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 2月7日の日本の昔話
 
  
 徳政じゃ
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 投稿者 「ちょこもち」  ちょこもち
 
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 投稿者 ナレーター熊崎友香のぐっすりおやすみ朗読
 
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 制作 : 妖精が導くおやすみ朗読チャンネル
 
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 制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】
 
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 投稿者 「天乃悠の朗読アート」   天乃悠の朗読アート
 
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 投稿者 「ぐっすり眠れる優しいおやすみ朗読」
  むかしむかし、京の町に、大きな宿(やど)屋がありました。いつも旅の人が大勢泊まっていて、とても賑やかでした。
 
 ところでこの宿屋の亭主は、いったいどこで耳に入れたのか、近いうちに徳政令(とくせいれい→借金を帳消しにするおふれ)のある事がわかったので、心の中でニヤリと笑いました。
 (こいつで、たんまりと儲けてやろう)
 亭主は、一部屋一部屋回り歩いて、泊まり客の持ち物を見せてもらいました。
 「ほう、このわきざし(→刀)は、けっこうなお品で。じっくりと拝見(はいけん)いたしとうございますが、しばらくお貸しくださるまいか」
 「この大きな包は、何でござりましょう。ほほう、立派な反物(たんもの→着物の生地)がこんなにもドッサリ。実は、娘や女房に買うてやりたいと存じますので、ちょいと拝借を」
 と、いう具合に、客の持ち物を次から次と借りていきました。
 客たちは、亭主の企みなどは夢にも知りませんので、
 「お役に立てば、お安い事」
 「さあさあ、どうぞ」
 と、気楽に何でも貸してくれました。
 こうして、どの部屋からもめぼしい物を借り回ったおかげで、主人の部屋には客の品が山の様に貯まりました。
 
 さて、二、三日すると、思った通り、おかみのおふれが出ました。
 役人がほら貝を吹きたて、鐘を打ち鳴らして、
 「徳政じゃあー。徳政じゃ」
 と、町をわめき歩きます。
 町のあちこちに、徳政の立礼(たてふだ)が立ちました。
 そこで宿の亭主はしてやったりと、広間に客を集めてこう言いました。
 「さてさて、困った事になりもうした。
 この徳政と申すは、かたじけなくも、おかみからのおふれでございます。
 このおふれのおもむきは、天下の貸し借りをなくし、銭・金・品物などによらず、借りた物はみな、借り主にくだされます。
 さようなわけで、皆さまからお借りした品々は、ただいまからわたくしの物になったわけでございます」
 と、いかにも、もっともらしく言いました。
 さあ、これを聞いた客はびっくりです。
 互いに目を見合わせて途方に暮れ、中には泣き出す者もいて大変な騒ぎです。
 けれど、
 「返して欲しい!」
 と、どんなに頼んでも、亭主は、
 「なにぶん、このおふれは、わたくしかっての物ではござりませぬ。天下のおふれ、おかみからのご命令。借りた物はみな、わたくしの物でございます」
 と、いっこうに聞き入れません。
 こうなっては客たちも、大事な物を亭主に貸した事をなげくばかりです。
 
 ところが客の中に、頭の切れる男かおりました。
 男はつかつかと亭主の前に進み出ると、こう言いました。
 「なるほど、天下のおふれとあれば、そむく事はなりますまい。そちらヘお貸しもうした物は、どうぞ、お受け取り下さる様に」
 この言葉に他の客たちがあきれていると、男は続けて、
 「ただ、こうしたおふれが出まして、あなたさまには、まことにお気の毒ではござります。
 だが、それもいたしかたのない事。
 わたくしどもはこうして、あなたさまのお宿をお借りしましたが、思いもかけず、このたびの徳政。
 今さらこの家をお返しする事も出来ぬ事になりました。
 どうぞ、妻子(さいし→おくさんと子ども)、召使い一同をお連れになって、今すぐこの家からお立ち退き下さる様」
 と、おごそかな声で言いました。
 さあ、今度は亭主の方がびっくりです。
 「何だと! この宿は、むかしからわしらの持ち物。今さら人手に渡す事はならぬ。ならぬわい!」
 と、まっ赤になって怒鳴ったのです。
 「いやいや。ご亭主。あなたさまが先ほど言われた通り、おふれはおふれ。この家はお借りもうした、わたくしどもの物です」
 「そ、そんな無茶な」
 宿の亭主は怒って、奉行所(ぶぎょうしょ→今でいう裁判所)に訴え出ました。
 すると、お奉行(ぶぎょう→裁判官)は真面目くさった顔で、宿の亭主に、
 「お前の言い分は通らぬぞ。借りた物は、借り主にくださるが徳政。お前は、妻子、召使い一同を連れて、家から立ち退くがよい」
 と、言い渡しました。
 
 宿屋を借りていたお客たちは、荷物こそは宿屋の亭主に取られましたが、宿屋を手に入れて幸せに暮らす事が出来ました。
 おしまい   
 
 
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