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百物語 第309話

かがみに化けたクモ

かがみに化けたクモ
富山県の民話富山県情報

 むかしむかし、越中の国(えっちゅうのくに→富山県)のある山のふもとに、一人の男がすんでいました。
 いつもは山へしばかりにいったり、畑を耕したりしてくらしていましたが、春と夏の二回は、カイコの仕事で家を留守にしました。
 春になると男は、桑畑(くわばたけ)を持っているお百姓さんをたずね歩いて桑の葉っぱを買い、カイコを育てている家へ売りに出かけます。
 そして夏になると、今度はカイコを育てている家からカイコのまゆを買い集めて、それを町まで売りに行くのです。
 カイコのまゆから出来る絹は、とても高価な物なので、なかなかの稼ぎになるのです。
 ある年の夏のこと。
 男はカイコのまゆを買うために、山奥の家を訪ねていきました。
 初めて行く家なので、この山にくわしい猟師にしっかりと道を聞いておきました。
 山の中の道をどんどんのぼっていくと、ふかい谷川の上に出ました。
 きりたった岩の下には、青黒くすんだふちがありました。
 まわりには大木がしげっていて、日も当たらず、まるで鏡のようにすみきっています。
 男は木につかまって、そのふちを見下ろしました。
 そしてふと顔をあげると、目の前にキラリと光る物がありました。
 なんと、長さが三尺(さんじゃく→約1メートル)ほどもあるきれいな鏡が、谷の上の空中に浮かんでいるのです。
 鏡は太陽の光に反射して輝き、その光が谷川の水にキラキラとうつっています。
(これはすごい。なんてきれいな鏡だ)
 男の頭に、一つの考えが浮かびました。
(もし、この鏡を手に入れれば、どれだけ高く売れるだろう。うまくすれば、長者になれるぞ)
 男はなんとしても、この鏡を手に入れたいと考えました。
 空中に浮いていても、その後ろの岩から手を伸ばせば届きそうです。
(取って取れないことはないな。よし、今日はこの場所をしっかりと覚えて、また取りに来るとしよう)
 男はひとまず、自分の家へ帰ることにしました。
 さて、この話を男から聞いたおかみさんは、すぐに反対しました。
「だめだよ。それを取るために、命をなくしたらどうするんだい。お願いだから、そんな危ない事はやめとくれ」
でも、男は承知しません。
「命をなくすなんて大げさな。それよりはやく戻らないと、ほかの人に見つけられてしまう」
と、いって翌朝早く、男はなわと山刀を持って出ていきました。
 こうなっては、しかたありません。
 おかみさんもまさかりをかついで、息子と一緒に男の後をおいました。
 男は追いかけてくる二人に気づかずに、山道をどんどんのぼっていき、とうとう姿が見えなくなってしまいました。
「さあ、あたしたちも急ぐよ」
 おかみさんと息子がどんどん山道をのぼって行くと、昨日と同じように谷川の上に鏡が浮かんで、太陽のようにまぶしく光っていました。
「なるほど、あの人のいった通りだ」
 おかみさんがふと下を見ると、男が岩をつたって、少しずつ鏡に近づいていく姿が見えました。
 足場が悪くて、男はいまにも落ちてしまいそうです。
(どうか、落ちませんように!)
 おかみさんは思わず、手をあわせました。
 そのとたん、
「うぎゃーーーー!」
 ものすごい悲鳴が、谷川に響きました。
 おかみさんがはっとして顔をあげると、男の姿がありません。
「大変! あの人がいない!」
 おかみさんと息子は、すべるようにして下へおりました。
 谷川のせまいところをわたり、やっとむこう岸にたどり着くと、いつの間にか鏡が消えていました。
 二人は不思議に思いながらも男の姿を探していると、ふちのそばの岩かげからうめくような声がしました。
「お前さん、大丈夫かい!」
 急いで駆け付けてみると男が倒れていて、その上には人間よりも大きな黒クモが、おおいかぶさるようにしてすわっていました。
 男の体は黒クモの糸でぐるぐるまきにしばられて、まるでカイコのまゆのようです。
「お前さん、いま助けるからね!」
 おかみさんはまさかりをふりあげて、黒クモにとびかかっていきました。
 息子も山刀を抜いて、黒クモに切りかかりました。
 黒クモは口を大きく開けると、
 シューーーーッ!
と、口から糸をふき出して、二人にあびせました。
 その糸をふりはらうようにして、おかみさんがまさかりをクモの頭にうちおろしました。
 そして息子が山刀で黒クモの首を切り落とすと、黒クモはまっ黒い血を吹き出して、それっきり動かなくなりました。
 息子は山刀で、男にまきついているクモの糸を切り裂きました。
「お前さん、しっかりおし!」
 おかみさんが男を抱き起こしますが、男はすでに死んでいたのです。
 息子がふと周りをみると、人間の骨がいくつも転がっていました。
 この黒クモはいつも鏡に化けて人をだまし、近づいてきた人間をカイコのまゆのようにして食べていたということです。

おしまい

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