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百物語 第133話

あぶらとり

あぶらとり

 むかしむかし、ある村に平作(へいさく)というなまけものがいました。
 いい年をしているくせに、嫁もむかえず、仕事もほったらかしで、日がな一日ゴロゴロしているのです。
 村人はあきれてしまい、あいてにしませんでしたが、平作は観音様(かんのんさま→詳細)に、
「観音さんや、おら、ずいぶんはたらいてきましたで、これからは、うまいものを食うてあそんでいられるところを教えてくだせえまし」
と、お願いしたのです。
 すると、観音さまがゆめまくらにあらわれ、
「平作、あすの夜明けに西へすすんでいくがよい。すれば、おまえのねがったところへいけるぞよ」
と、おつげをしてくださりました。
 平作は、一番どりをまってとびおきると、西へむかって走っていきました。
 村をぬけ、野原をつっきり、川をとびこえ、山をこえると、なんと海にでてしまいました。
「なんだ。ここでいきどまりでねえか。ここが、おつげのところか?」
 平作があたりをみまわすと、一けんのあばら家がありました。
 なかをのぞくと、しらがをふりみだしたおばあさんがでてきて、ジッと平作をみつめます。
 平作が観音さまのおつげをはなすと、
「ああ、それ、それ。それはむこうの島だ」
と、いいます。
 平作は、島といわれてこまっていると、
「なんもしんぱいいらん。浜にたって手を三つたたけば、むかえの舟がくるわい」
と、いって、おばあさんは、おくへひっこんでしまいました。
 平作はいわれるままに浜にたって、手をパン、パン、パンと三つたたきました。
 すると、おきから波をけって、一そうの舟が浜に近づいてきます。
 よくみると、ひとりのおじいさんがのっていて、ろで舟をこいでいます。
 おじいさんは浜にあがると、平作にうやうやしくおじぎをして、
「おむかえにあがりましたで、どうぞ」
と、いいました。
 平作が舟にのると、舟は波をきっておきへすすみ、あっというまに島へつきました。
「平作どんといいましたな。おめえさまのねがいは、よーくわかっております。このさきのやかたへいってみなされ」
 おじいさんはそういうと、どこかへいってしまいました。
 平作は坂をのぼると、石がきにかこまれたやかたがありました。
 門の前にたって、
「もうし、もうし、おつげのうちはここですか」
と、いうと、なかからあぶらぎった男があらわれ、
「おお、遠いところよくきてくださった。おまちしておりましたぞ」
と、おくのへやへと案内しました。
 そこには、酒やさかながならべてあります。
「えんりょはいらん。さ、やってくだせえ。さ、さ」
と、男は酒をついでくれました。
 平作は、しこたまのんで食って、ねてしまいました。
 しばらくして目をさますと、男がすわっていて、
「さあのめ、さあ食え」
と、またまた酒をついでくれるのです。
「この世の中にも、こんなすばらしいところがあったのかいな。さすが観音さまのおつげだ」
 平作は毎日、朝からのんでねむり、食ってねむっていました。
 日がたつと、平作はまるまると太って、からだじゅうがギラギラとあぶらぎってきました。
 その平作を、男はまんぞくそうにながめて。
「ようこえなすったな。おめえさんをみれば、だれだってきたがりますで、ここから一歩も外へでたり、ほかのへやをのぞいたりせんでくだされ。さ、さ」
と、いって、男はまた、酒をついでくれます。
 あるばんのこと。
 平作がしょうべんにいこうとすると、むこうのへやからうめき声がしてきました。
「こんな夜中に、いったいなんだべ」
と、戸のすきまからなかをのぞいてみると、
「あーっ!」
 平作は、血の気をうしなってしまいました。
 へやのまんなかには、炭火が真っ赤にもえており、その上になべがグラグラとにえたぎっています。
 そして、てんじょうからは、男がさかさづりにされて、目から鼻から、口から耳、いや全身から、あぶらがポターリ、ポタリと、なべのなかにたれているのです。
 ろばたには、あの男がすわっていて、ときどき、なべのなかのあぶらをすくっては、あじみをしています。
「うん、だいぶこくなってきたぞ。だが、まだたらんわい。これに平作のあぶらをたすとするか。やつには、しこたま酒やさかなを食わしてきたでな。あしたが楽しみじゃ」
 こわくなった平作は外へととびだし、ドンドンと逃げ出しましたが、やかたの男が、
「まてえ、まてえ、平作!」
と、おいかけてきました。
 平作はふとっているので、おもうように走れません。
 ころんではおき、手や足をすりむきながら、やっとのことで浜につきました。
「まてえ、動くなっ!」
 男の声は、だんだん近づいてきます。
 平作が、もうこれまでとおもったとき、うまいぐあいに舟をみつけました。
 そしてそれにとびのって、島をはなれていきます。
「やれやれ、たすかった」
と、思って海を見てみると、男も舟でおってくるのです。
「こらいかん。どこかにかくれねば」
と、平作は、そこらをさがして舟小屋をみつけると、そこにとびこんで息を殺していました。
 男は、小屋のまわりをウロウロしています。
「たしかにここへきたはずだぞ。このなかにいるにちがいねえ」
 男は小屋にドカドカと入ってきて、手あたりしだいに、ヤリで突き刺します。
 平作は、もう生きた気がしません。
 ブルブルとふるえていると、
「はーん、ここにおったか。平作! かくごせいっ!」
と、男はヤリをつきさしました。
「た、たすけてくれえーー!」
 平作がさけんで目をさますと、なんとそこは、観音堂だったのです。
 むしのいい願い事をする平作を、観音さまがこらしめたのでした。

おしまい

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