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百物語 第122話

旅は道連れ

旅は道連れ

 むかしむかし、一人の武士(ぶし)が、京へ向って旅をしていました。
 ちょうど鈴鹿山(すずかやま)をこえようとした時、急に耳もとで、何か人の話し声がしました。
(はて、きみょうな)
と、あたりを見まわしましたが、誰もいません。
「風の音かな?」
と、歩き始めると、また耳元で話し声がします。
 何を言っているのかわかりませんが、あんまり近くに聞こえるので、もう一度、あたりを見回しました。
「やはり、誰もおらぬか」
 しばらく歩いていくと、遠くの方に、旅の町人と虚無僧(こむそう→詳細)が、連れ立ってあるいているのが見えました。
(なんだ、あの二人の話し声か。・・・いや、それにしてはおかしい。これだけはなれておって、すぐ耳元で聞こえるとは。よし、行ってみるか)
 武士は早足で二人に追いつき、追いこしざまに、二人の顔を見ました。
「・・・!」
 町人の方はふつうですが、虚無僧の顔が変で、ちり紙をクシャクシャにしたような顔なのです。
 おまけに声は聞こえますが、何を言っているのか、さっぱりわかりません。
(さては、虚無僧。妖怪変化のたぐいと見える。ことあらば、一太刀(ひとたち)に切って捨てん)
 武士はゆっくり歩き、すぐ後ろに二人が来た時、武士はバッとふりかえりました。
 とたんに、
「うわーっ」
と、さけんだ町人が、いきなり武士にしがみついてきました。
「お、恐ろしや・・・。恐ろしや・・・」
 町人は、ガタガタふるえながら、
「消えて、き、消えてなくなりました。い、今まで、一緒にまいりました虚無僧が、あなたさまが後ろをむかれたとたんに」
 言われて武士は、
(しまった、とりにがしたか)
と、くやしがりましたが、そ知らぬ顔で町人にたずねました。
「これまで、何を話しながら、ここまでまいられたかな?」
「はい。あの虚無僧殿が、わしは遠い国の者だ。このあたりはいっこうに知らぬゆえ、今夜はどこへ宿をとったらよろしかろうと、申されました」
「それで」
「さ、さいわい、わたくしどもが宿屋をいたしておりますので、今夜はおとめいたしましょうと、そう申しておったところで、ございます」
と、町人は、まだふるえがとまらず、オロオロした声で答えました。
「ところで、おぬしはそやつの顔を見たか?」
「いいえ」
「まるで、ちり紙をクシャクシャにしたような顔であったぞ」
「ひえーっ。では、あの、化け物か何かで」
「まあ、そう、こわがることもあるまい。たとえ相手が化け物でも、旅は一人よりも多い方がたのしいわい。あははははっ」
 底抜けに明るい声で笑うと、武士は町人と連れだって、町まで歩いて行ったそうです。

おしまい

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