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2012年　5月7日の新作昔話



カンチールとおバカなワニ
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　むかしむかし、カンチールという名前のかしこい小さなシカがいました。

　ある日の事、若草をお腹いっぱいに食べたカンチールが、水を飲もうと近くの川へ行きました。
　すると川では大勢のヤギたちが、困った顔で川を見つめています。
「おや？　みなさん、どうしたのですか？」
「あっ、カンチールさん。
　実は川にワニがいるので、水が飲めないのです。
　どれがワニで、どれがただの丸太なのか、わからなくて困っているのです」
「ふーん。
　確かにワニの様な、丸太の様な物が浮いているな。
　・・・よし、ぼくが確かめてやろう」
　カンチールは水ぎわまで行くと、大きな声で叫びました。
「おーい、お前は丸太かい？
　それとも、ワニかい？
　もし丸太なら川をのぼるし、ワニだったら川をくだるはずだ。
　さあ、どっちかはっきりしてくれよ」
　すると、どうでしょう。
　じっと川に浮かんでいた丸太がユラリユラリとゆれだして、川上の方へ動き出したではありませんか。
　それを見てカンチールとヤギたちは、声をあげて笑いました。
「あははははは。
　何ておバカな、ワニなんだろう。
　丸太が一人でに、川をのぼるもんか。
　お前はやっぱり、おバカさんのワニだ」
　みんなに笑われて、ワニはカンチールにだまされた事に気がつきました。
「えーい。にくらしいチビ助め。いまに見ていろ！」
　ワニはカンチールに仕返しをしてやろうと、カンチールが来るのを毎日待っていました。

　数日後、あの川へカンチールが水を飲みにやって来ました。
(カンチールめ、この前の仕返しをしてやるからな)
　ワニがじっと待っていると、カンチールは自分の足と同じくらいの太さのアシのくきを持って来て、それを水ぎわに突き刺してから水を飲みました。
(よし。いまだ！　あの足をかみ切ってやる！)
　ゆっくりと近づいてきたワニは、カンチールが突き刺したアシのくきに思いっ切りかぶりつきました。
　それを見て、カンチールは大笑いです。
「あはははは。
　おバカなワニくん、また失敗したね。
　あしはあしでも、それは草のアシだよ。
　ぼくの足は、これこの通りさ」
　カンチールは足をピョンとあげると、森の中へと帰って行きました。

おしまい