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        福娘童話集 > お薬童話 > ヒステリーをやわらげる お薬童話 
         
        
       
お墓にはいったかわいそうな少年 
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       むかしむかし、ひとりのヒツジ飼いの少年がいました。 
 かわいそうなことに、お父さんもお母さんも死んでしまったので、あるお金持ちの百姓(ひゃくしょう)のうちでそだてられることになりました。 
 ところがこの百姓夫婦は、たいヘんなお金持ちなのに、けちんぼでいじわるでした。 
 ですから、その少年はどんなにいっしょうけんめいはたらいても、ごはんを少ししか食ベさせてもらえません。 
 ある日、少年はメンドリとヒヨコたちの番をするようにいわれました。 
 ところがハヤブサがメンドリにおそいかかって、メンドリをするどいツメでつかむと、そのままどこかへ飛んでいってしまいました。 
 少年は、ありったけの声をだしてどなりました。 
「だめだよー! メンドリをかえしてくれー! かえしてくれないと、おこられてしまうよー!」 
 しかしハヤブサは、メンドリをかえしにきませんでした。 
 百姓はそのさわぎをききつけて、とびだしてきました。 
 そしてメンドリがさらわれたときくと、ひどくおこって少年をなぐりつけました。 
 かわいそうに少年は、ひどくなぐられたので、三日間もおきあがることができませんでした。 
 さて、少年はヒヨコたちの番をすることになりました。 
「ハヤブサがこないように、ずっと見張っていなくっちゃ」 
 はじめのうちはうまくいっていたのですが、二、三日あとのことです。 
 少年はおなかがペコペコだったので、つい、いねむりをしてしまいました。 
 するとそのすきに、ハヤブサがまいおりてきて、ヒヨコたちを全部食べてしまったのです。 
 少年はまた百姓にひどくなぐられたので、いく日もおきあがることができませんでした。 
 しばらくたって、少年がまた立って歩けるようになったとき、百姓がいいました。 
「おまえは、なんてバカな子なんだ。もう番人をさせてもだめだから、そのかわりに使いにいくんだ」 
 百姓はこういって、ブドウをたくさんいれたカゴと手紙を少年にもたせて、裁判官(さいばんかん)のところヘ使いにやりました。 
「ああ、おいしそうなブドウだな。ああ、おなかがすいたなー。・・・これだけあるんだ、すこしぐらい食べても大丈夫だろう」 
 おなかがすいてたまらない少年は、とちゅうでブドウをふたつぶ食ベてしまいました。 
 少年は裁判官にブドウのカゴをわたしましたが、裁判官は手紙をよんでブドウの数をかぞえおえるといいました。 
「ふたつぶ、たりんぞ」 
 少年は、おなかがすいてブドウを食ベましたと、正直にわけを話しました。 
 裁判官は、百姓に手紙を書きました。 
 そしてもういちど、ブドウをおなじだけ、おくってくれるようにとたのみました。 
 こんどもまた、百姓はブドウと手紙を少年にわたして使いにだしました。 
 すると少年は、こんどもまたおなかがすいて、ブドウをふたつぶ食ベてしまいました。 
 けれどもこんどは食ベるまえに、カゴから手紙をとりだして石の下にかくし、その上にすわりこみました。 
 じぶんがブドウを食ベるのを見て、手紙が裁判官にいいつけるといけないと思ったからです。 
 ところが裁判官は、なぜブドウを食べたのかと少年をしかりました。 
 少年はおどろいて、 
「裁判官のおじさん。なぜわかったの? 手紙は知らないはずだよ。だってぼく、食べるまえに手紙を石の下にかくしといたんだもの」 
と、いいました。 
 裁判官は思わずわらいだしてしまい、百姓に手紙を書いて、『少年にもっと食ベものをやって、だいじに世話をしなさい』と、たしなめました。 
 またその手紙で、『正しいことと、正しくないことの区別ができるように、少年によくおしえてやりなさい』と、たのみました。 
「よし、裁判官のいうとおりにしてやろう」 
 百姓は、こわい顔でいいました。 
「だがな、食ベものがほしいんなら、はたらかなければならんぞ。もし、おまえが正しくないことをしたらうんとなぐって、正しいことがなんだかおしえてやろう」 
 こういって百姓は、そのあくる日から、少年につらいしごとをいいつけました。 
 ウマのかいば(→エサのこと)にするために、ワラをこまかく切るしごとです。 
「よいか。五時間たったらわしはかえってくる。そのときまでに、ワラをぜんぶ切っとかなければ、手も足もうごけなくなるまでぶんなぐってやるからな!」 
 百姓は町にでかけました。 
 少年のしごとは、とってもおなかがすくしごとですが、百姓は、たったひときれのパンしかくれませんでした。 
 少年はワラ切り台のまえにすわって、いっしょうけんめいはたらきました。 
「はあ、あついな。上着をぬいでおこう。・・・それにしても、おなかがすいたなー」 
 少年はおなかがすいてフラフラだったので、ワラといっしょに上着を切っていることに気がつきません。 
「あんまり時間がないぞ。いそがないと。仕事が終わっていないと、またなぐられるからなあ。・・・ああっ! しまった!」 
 少年が上着を切っていることに気がついたときには、上着はバラバラになっていました。 
「ぼくはもうだめだ。だんながかえってきてこれを見たら、ぼくをなぐって殺すだろう。ああ、ひどくなぐられて死ぬなら、いっそじぶんで死んでしまおう」 
 少年はおかみさんが、『ベッドの下に、毒(どく)のツボをかくしておいた』と、いつも言っているのを思いだしました。 
 ほんとうはそれはハチミツで、おかみさんは、ぬすみぐいをされるといけないと思い、うそをついていたのです。 
「よし、毒を食べて死のう」 
 少年はベッドの下にもぐりこんでツボをとりだすと、中身を食ベはじめました。 
「おや? こいつは、おどろいたなあ。毒って、にがいもんだとおもっていたけど、これはあまいや。おかみさんがよく、死にたい、死にたいっていうのはあたりまえだよ」 
 全部食べ終えた少年は、小さなイスにすわって、死ぬのを待ちました。 
 けれども、栄養(えいよう)のあるハチミツを食べたので、死ぬどころかはんたいに、元気になってくるのに気がつきました。 
「こいつはきっと、毒じゃあなかったんだ」 
 次に少年は、洋服ダンスにかくしてあるビンを取り出しました。 
「だんなが、ハエとりの毒を洋服ダンスにいれたといっていたけど、これがそうだな。よし、これを飲んで死のう」 
 けれどもそれは、ハエとりの毒ではなくてブドウ酒だったのです。 
 少年はビンをとりだして、グイッとのみほしました。 
「ヘーえ。この毒もあまいや」 
 けれども、ブドウ酒によっぱらってきて、頭がボンヤリしはじめると、少年は毒がきいてきたのだと思いました。 
「こんどこそ、死ぬような気がするぞ。墓地(ぼち)へいって、お墓の穴をさがすとしよう」 
 少年はフラフラしながら、墓地ヘいきました。 
 そして、ほったばかりの穴を見つけると、なかに入って横になりました。 
 ブドウ酒がどんどんまわってきて、少年はだんだん気がとおくなっていきました。 
 墓地の近くには料理屋があって、ちょうどそこで結婚式をあげていました。 
 少年はその音楽をきくと、 
「ああ、もう天国にきたんだ」 
と、思いこみ、そして気をうしなってしまいました。 
 かわいそうに少年は、そのまま目をさましませんでした。 
 子どもなのにたくさんのブドウ酒をのんだためと、夜のさむさにこごえたため、少年は死んでしまったのです。 
 百姓は少年が死んだときいて、ビックリしました。 
 少年がかわいそうだったわけではなく、裁判官におこられるのではないかと思ったからです。 
 そして、どういいわけしたらよいか、だんなとおかみさんが話し合っていると、台所の火がもえあがって、あっというまに百姓の家を灰にしてしまいました。 
 百姓夫婦は何とか逃げだして無事でしたが、その日以来、少年にはわるいことをしたとひどく後悔(こうかい)しながら、貧乏にみじめにくらしました。 
      おしまい 
          
         
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