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        福娘童話集 > お薬童話 > 風邪(かぜ)の時に読む お薬童話 
         
        
       
リジーナとネコの家 
イギリスの昔話 → イギリスの国情報 
      
       むかしむかし、リジーナというやさしい女の子がいました。 
 リジーナは町はずれの小さな家で、欲ばりのお母さんと、意地悪なおねえさんのペピーナといっしょにくらしていました。 
 ある日、お母さんがリジーナに言いました。 
「リジーナ。家のお金が少なくなってきたから、お前は外で働いておいで。私とペピーナは、家を守って留守番しているからね」 
 リジーナは、 
「はい」 
と、答えて家を出ました。 
 お母さんは、自分に似ているペピーナばかり可愛がります。 
 そしていつだって、リジーナが働いて持ってくるお金をあてにしていました。 
 でもやさしいリジーナは、文句一つ言わずに、 
「お母さんとねえさんが喜ぶのなら、一生懸命働くわ」 
と、出かけて行くのでした。 
 町の通りに出るとリジーナは、プンプン怒ってお屋敷から出て来る女の人に会いました。 
「いったい、どうしたのですか?」 
 リジーナがたずねると、女の人はお屋敷を指さしながら、顔をまっ赤にしていいました。 
「まったく、この屋敷にはネコしかいないと聞いたから、仕事は楽だろうと思ったけれど、とんでもないのよ。いくら掃除しても毛は落ちているし、カーテンは引きちぎるし、柱で爪はとぐし、私が怒れば飛びついて来るし。もう、ネコの世話と屋敷の仕事はコリゴリよ!」 
 それを聞いたリジーナは、ニッコリ笑って言いました。 
「では、私にそのお仕事をさせてくださいな」 
「なら、市長さんに頼むといいわ」 
 女の人はそう言うと、行ってしまいました。 
 さっそく市長に頼んだリジーナは、お屋敷の大きな扉をノックしました。 
「こんにちは。私はリジーナです。ここで働かせていただきます」 
 広間にいるネコたちは、リジーナをにらみました。 
 ソファーには白ネコ、まどの棚には黒ネコとブチネコ、テーブルの上には灰色のネコ、テーブルの下には灰色の子ネコたち、カーテンのかげにも、大きな花びんの後ろにも、たくさんのネコたちがいます。 
 リジーナは早速エプロンをつけて、仕事を始めました。 
 じゅうたんの上に散らばる毛も、一本一本ていねいにひろいます。 
 破れたカーテンはとりはずし、チクチクとぬいました。 
 その間も、ネコたちはリジーナのじゃまをします。 
 リジーナの前や後ろを歩きまわったり、背中に飛びついたり、わざと音をたてて柱で爪をといだりします。 
 でもリジーナは怒ったりせず、ニコニコと笑うだけです。 
 そして歌を歌いながら、おいしい夕食を作り、まずはネコたちに食べさせました。 
 そしてネコたちの食べ終わった食器を洗ってから、自分はパンとスープだけの食事をしました。 
 それからリジーナは、ソファーに座り、 
「さあ、いらっしゃい」 
と、一匹ずつネコをひざに乗せて、ブラシをかけてあげたり、けがをしているネコには手当をしたり、年よりのネコにはていねいになでてあげました。 
 すると太った大きな茶色のネコが、人間の言葉でこう言ったのです。 
「リジーナ、いつまでもネコの家にいておくれ。我々ネコは、そのむかし、町にネズミがあふれたときに、ネズミを全部退治したんじゃ。それで市長がネコのために、この屋敷をたててくれた。人間のお手伝いさんも一人置いてくれるようになった。でも人間は、我々がネコだと思って、気にいらないと蹴飛ばすし、ほうきでたたいたりするんじゃ。こうしてなでてもらったのは、生まれて初めてじゃ」 
「まあ、そうだったの。ネコさんたちは、この町を救ってくれたのね」 
 リジーナはニッコリほほえむと、ネコたちに言いました。 
「さあ、みんなで寝ましょう。私が子守歌を歌ってあげますよ」 
 ネコたちは大喜びで、リジーナといっしょにベッドの中へもぐり込みました。 
 リジーナはすんだきれいな声で、自分で作った子守歌を歌いました。 
♪星の光よ 
♪優しくそっと 
♪ネコたちを守っておくれ 
♪月の光よ 
♪その輝きを 
♪ネコたちに与えておくれ 
 リジーナはネコたちが気持ちよく過ごせるように、屋敷の中も広い庭も、一生懸命掃除をしました。 
 朝食も夕食も、心をこめて作りました。 
 仕事の合い問には、ネコを順番にひざに乗せて、歌いながらなでてやりました。 
 やがてネコたちの方も、リジーナの仕事のじゃまにならないように注意しました。 
「みんなが協力してくれるから、私の仕事はとても楽しいわ。ありがとうね」 
「いいや、みんな、リジーナの笑顔を見ていたいだけさ」 
 リジーナとネコたちは、本当に仲良く楽しくくらしました。 
 そして何日かたつと、リジーナがときどきさびしそうな顔をすることに、ネコたちは気づきました。 
「リジーナ、どうしたの? もしかして、この屋敷にいるのがつらくなったの?」 
「いいえ、とんでもないわ。・・・ただ、私の帰りを待っているお母さんとねえさんに、会いたくなったの」 
 そう聞くと、ネコたちはホッとした顔で、 
「なんだ、それなら会いに帰るがいいさ」 
「そうだよリジーナ。ああ、その前に、ちょっとついておいで」 
 ネコたちは、リジーナを地下室に連れて行きました。 
 地下室には、大きなツボと小さなツボがありました。 
「どちらでもよいから、ツボの水で顔と手を洗ってお行き」 
 ネコに言われて、リジーナは小さなツボの水で顔と手を洗いました。 
 すると手も顔も、たちまちまっ白で、ツヤツヤとかがやきました。 
 そしてネコたちは、 
「いままでのお礼だよ」 
と、ポケットいっぱいに、金貨をつめてくれました。 
「わあ、どうもありがとう。では、行ってきます」 
 リジーナは、よろこんで帰りました。 
 お母さんとペピーナは、リジーナの帰りを待ちくたびれていました。 
 いいえ、本当はリジーナではなく、リジーナが持って帰るお金を、待ちくたびれていたのです。 
 だからリジーナが帰ると、市長からもらったお給料と、ネコからもらったポケットいっぱいの金貨を、全部とりあげてしまいました。 
 そしてリジーナが美しくなってもどって来たので、今度はペピーナがネコの家へ行くと言いだしました。 
 次の日、ペピーナはネコの家に行きました。 
 ネコたちは、リジーナのねえさんだから、きっとやさしい人に違いないと思いました。 
 けれど、ペピーナはネコたちがちょっと歩くと、 
「毛が落ちるじゃない!」 
と、ほうきで追いかけます。 
 夕食も自分ばかりごちそうを食べて、ネコたちにはそのわずかな残りを、外に投げて食べさせました。 
 そしてペピーナは、地下室で大きいツボと小さいツボを見つけると、まよわず大きいツボに手をつっ込みました。 
 そのとたん、顔は油と灰でベタベタになり、うす汚れた灰色の顔になってしまったのです。 
 ペピーナはプリプリ怒りながら屋敷を出て、町の通りに出ました。 
 そのとき、ガラガラと馬車(ばしゃ)を引いたロバが通りかかり、しっぽでペピーナの顔をたたきました。 
「わっ!」 
と、思ったときはもうおそく、なんとペピーナのおでこには、ロバのしっぽの長い毛が十本ほどくっついてしまったのです。 
 リジーナはペピーナの帰りを、窓辺であみものをしながら待っていました。 
 そこへ、お城の王子さまがウマに乗って通りかかったのです。 
 窓辺のリジーナを一目見ると、王子さまは、 
「なんと可愛らしい人だろう。ぜひ、花嫁にしたい」 
と、思いました。 
 そしてリジーナのお母さんに、その気持ちを伝えて、 
「明日、花嫁にむかえにきます」 
と、いったのです。 
 そこへペピーナが帰って来たので、お母さんはすぐにリジーナを戸だなにかくしました。 
 それから白いベールを用意して、ペピーナにかぶせました。 
 王子さまにはリジーナではなく、自分の可愛がっているペピーナと結婚させようと思ったのです。 
 朝が来て、王子さまがリジーナをむかえに来ました。 
 お母さんはすまして、白いベールをかぶせたペピーナをウマに乗せました。 
 町の通りには大勢の人たちが出て、王子さまと白いベールの王女の結婚をお祝いしました。 
 そのとき、ネコたちが通りに飛び出して、歌を歌い出したのです。 
♪王子さまは、だれと結婚するの? 
♪ベールをあげれば、すべてがわかる 
♪本当の花嫁は、戸だなの中 
♪ここにいるのは、ニセ者さ。 
「なんだって?」 
 王子さまはウマを降りて、花嫁の白いベールをあげました。 
「あっ!」 
 白いベールの下には、灰色の顔でおでこからロバのしっぽの生えたペピーナがいたのです。 
 王子さまは急いで戻ると、戸だなの中のリジーナを助け出してウマに乗せました。 
 町の人たちは、美しいリジーナに大喜びです。 
 王子さまとリジーナは、すぐに結婚式をあげました。 
 そして町中の人をお城によんで、お祝いのバーティーをしました。 
 もちろん、あのネコたちもよばれて、リジーナの幸せを心からお祝いしたのです。 
      おしまい 
          
         
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