風邪の時に読む お薬童話 福娘童話集
 


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カメの遠足

カメの遠足
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 むかしむかし、あるところに、カメの一家が住んでいました。
 お父さんガメと、お母さんガメと、男の子のカメの三匹です。
「今日はいいお天気だから、あそこに見える丘の上までピクニックにいかないか?」
 お父さんガメが言うと、お母さんガメも子ガメも賛成しました。
「まあ、それはすてきね」
「わーい、ピクニックだ、ピクニックだ」
 そこでお母さんガメは、ピクニックのお弁当のしたくを始めました。
 お弁当の中身は、ツナのかんづめ、シチューのかんづめ、ミカンのかんづめ、モモのかんづめ、それからお母さんの手づくりのサンドイッチです。
「おいしそうだな。はやく丘の上に行って、食ベたいね」
 子ガメは、とてもうれしそうです。
 ごちそうをバスケットにつめると、三匹は出発しました。
 でもカメは足がおそいので、ノロノロ、ノロノロ歩きます。
 がんばって、がんばって歩きましたが、一年半たっても、まだ道の半分しかきていませんでした。
 それからもがんばってがんばって歩いて、三年目にようやく丘の上に到着しました。
「やれやれ、やっと着いた」
「ぼく、お腹がペコペコだよ」
「さあ、食べましょう」
 お母さんガメは、かんづめとサンドイッチを草の上に出しました。
 それからバスケットの中を、ゴソゴソと探します。
「あら、ないわ」
 お母さんガメは、バスケットをさかさにしてふりました。
「お母さん、どうしたの?」
「それが、かん切りを家に忘れてきたのよ」
「ええっ・・・」
「ええっ・・・」
 三匹は、顔を見合わせました。
 かん切りがなくては、かんづめを開けられません。
 しばらくして、お父さんガメが言いました。
「坊や。家へ帰って、かん切りを持って来ておくれ」
「ええっ! ぼくが?」
「お願いよ、坊や。そのかわり、お前がここに戻って来るまで、何にも食べないで待っているから」
「・・・ちぇっ」
 お父さんガメとお母さんガメに頼まれて、子ガメはノロノロとやぶの中に入っていきました。
 お父さんガメとお母さんガメは、じっと子ガメを待ちました。
 待って待って、一年がたちました。
 もう、お母さんガメはお腹が空いて、しかたがありません。
「お父さん、サンドイッチを少しだけ食べましょう。ねえ、いいでしょう?」
 お父さんガメは、首を横に振りました。
「いいや、だめだ。あの子が帰ってくるまで、がまんしよう」
 待って待って、二年がすぎました。
 お腹が空きすぎて、お父さんガメとお母さんガメはフラフラです。
 お父さんガメが、言いました。
「どうだろう。サンドイッチのはしっこを、ほんのひとかけらだけ食ベようか?」
 今度は、お母さんガメが反対しました。
「いいえ、お父さん。あの子と約束したんですから、帰って来るまで待ちましょうよ」
 そこで二匹は、こうらの中に首をひっこめて、ジッとだまり込みました。
 待って待って待って待って、とうとう六年がたちました。
「お父さん、もうわたし、死にそうですよ」
「そうだな。行きに三年、帰りに三年。あいつもそろそろ帰って来るだろう。少し食べはじめるか」
 お父さんガメとお母さんガメは包みを開けて、サンドイッチを取り出しました。
 そして口に入れようとした、その時です。
 近くのやぶの中から、子ガメが出て来てさけびました。
「あっ! 約束を破るの? ずるいなあ。やっぱりぼく、ずーっと、ここにかくれて見張っていてよかったよ」

 カメの一家は、いつになったらお弁当を食べられるのでしょうね。

おしまい

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