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        福娘童話集 > お薬童話 > お腹が痛いときに読む お薬童話 
         
        
       
ネズミとゾウ 
トルコの昔話 → トルコの国情報 
      
       むかしむかし、あるところに、一匹のネズミがいました。 
 そのネズミは、カガミを持っています。 
 それも魔法のカガミで、そのカガミをのぞくと誰でも自分が大きく偉く見えるのです。 
 
 毎日毎日、そのカガミをのぞいているネズミは、自分ほど大きくて偉いものは、どこを探してもいないと思い込みました。 
 そして仲間のネズミたちを、馬鹿にする様になりました。 
 それを見て、世の中の事をよく知っている年寄りのネズミが言いました。 
「坊や。お前は自分が大きくて偉い生き物だといばっているそうだけど、それはとんでもない間違いさ。これをゾウが知ったら、大変な事になるよ」 
「そのゾウって奴は、何者だ?」 
「ゾウというのは、世界で一番大きな生き物でね。どんなに強い動物でもかなわないんだよ」 
「うそだ! おれさまより強い奴がいてたまるか!」 
 ネズミはそう言うと、ゾウを探す旅に出かけました。 
 
 旅に出たネズミは、野原で緑色のトカゲに出会いました。 
「おい。ゾウっていうのは、お前かい?」 
「いいえ。わたしはトカゲよ」 
「そうか。ゾウでなくてよかったな。ゾウだったら踏み潰してやるところだった」 
「まあ、ゾウを踏み潰すですって?」 
 小さなネズミのいばり方があんまりおかしかったので、トカゲは思わず吹き出しました。 
「何を笑う! いいか、おれさまは世界で一番大きくて偉い動物だぞ!」 
 ネズミは怒って、足を踏みならしました。 
 するとちょうどその時、ズシンズシンと地ひびきがしました。 
 緑色のトカゲは驚いて、石のかげに隠れてしまいました。 
「えへっん。どんなもんだい」 
 ネズミは自分の足踏みが地ひびきを起こしたと思い、得意になってまた先に行きました。 
 しばらく行くと、今度はカブトムシに出会いました。 
「おい。お前がゾウという奴か?」 
「とんでもない。ぼくはカブトムシさ」 
「そうか。ゾウでなくてよかったな。ゾウだったら踏み潰してやるところだった」 
 それを聞いて、カブトムシはクスッと笑いました。 
 ネズミは怒って、また足を踏みならしました。 
 けれども地面は、ピクリともしません。 
(おや? おかしいな) 
 ネズミはもう一回、足を踏みらなしましたが、やはり地ひびきはおこりません。 
(そうか、きっと地面がしめっているせいだな) 
 ネズミはそう思うと、先ヘ行きました。 
 そして今度は、木のそばでジッと座っている大きな動物に出会いました。 
(大きいな。こいつこそ、ゾウらしいぞ。しかしジッとしているところを見ると、きっとこのおれさまを怖がっているんだな) 
 ネズミはそう思って、いばって聞きました。 
「おい。お前がゾウか?」 
 それを聞いた大きな生き物は、ニヤリと笑って答えました。 
「違うよ。わたしは世界で一番偉い者の仲良しだ。わたしはイヌだよ」 
「世界で一番偉い者? それは何だ?」 
「決まっている。それは人間さ」 
「へえ。 
 とにかく、お前はゾウでなくて幸せだったな。 
 もしもゾウだったら、たちまち踏み潰してやるところだ。 
 何しろ世界で一番強いのは、このおれさまなんだからな」 
 それを聞いたイヌは、少しネズミをからかってやりました。 
「確かに、そうかもしれないね、ネズミくん。 
 あの人間だって、きみたちに食べさせる為に、コメやムギを作っているんだもの」 
「まあな」 
 ネズミは先を急いで、森の奥ヘやって来ました。 
 そこでネズミは、山の様に大きな物にぶつかりました。 
 足は木のみきの様に太くて、おまけに体の前の方にも長い尻尾がぶらさがっています。 
「お前は、ゾウか?」 
 ネズミは、力一杯声を張り上げました。 
「おや?」 
 ゾウは辺りを見回しましたが、ネズミがあんまり小さいので目に入りません。 
 そこでネズミは、大きな石によじ登りました。 
 ゾウはようやくネズミを見つけて、答えました。 
「そうだ。わしはゾウだよ」 
「そうか。おれさまは世界で一番強くて偉いネズミだ。今からお前を踏み潰してやる。覚悟しろ」 
 ネズミはふんぞり返って、偉そうに叫びました。 
 けれどもゾウは気にせず、そばの水たまりに鼻をつっこんで、シャワーの様に水をまき散らしました。 
「ワッー!」 
 その水にネズミの小さな体は吹き飛ばされて、もう少しでおぼれそうになりました。 
「なっ、なんだったんだ。今のは」 
 ネズミはやっとの事で、家に帰りつきました。 
 今度の旅で、世界には自分よりもずっとずっと大きなもの、強いものがいる事を思い知ったネズミは、それからというものほかのものをバカにしたり、いばったりしなくなりました。 
 ついでに、魔法のカガミをのぞく事もやめてしまいました。 
      おしまい 
          
         
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