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        福娘童話集 > お薬童話 > お腹が痛いときに読む お薬童話 
         
        
       
タールぼうや 
ハリスの童話 → ハリスの童話の詳細 
      
       むかしむかし、ある森に、イタズラ好きのウサギがいました。 
 そんなイタズラウサギをなんとかつかまえようと、キツネが考えていました。 
「なにかいい方法がないかな。・・・そうだ! いいことがあるぞ!」 
 よいアイデアを思いついたキツネは、コールタール(→石炭から取れる、ネバネバしたもの)に松ヤニをたっぷりまぜると、それで人形を作って、ウサギがよく通る道ばたにポンと立てました。 
 それから、草むらにかくれたのです。 
 まもなく、ウサギがやってきました。 
 ウサギは、人形を見つけていいました。 
「おはよう、今日はいい天気だね」 
「・・・・・・」 
 もちろん、人形は何もいいません。 
「おい、だまっているとはなまいきだぞ!」 
「・・・・・・」 
 人形は、やっぱり何もいいません。 
「返事しないと、一発、くらわすぞ!」 
「・・・・・・」 
 それでも、だまっている人形に腹をたてたウサギは、バシンと、人形の顔をたたきました。 
 すると、 
「あっ!」 
 ウサギの手は、グチャッとコールタールの人形にくっつきました。 
「おい、もう一度ひっぱたかれるまえに、おれさまの手をはなしたらどうだ!」 
 カンカンになったウサギは、もう片方の手で、また人形の顔をバシン。 
 その手も、グチャッとひっつきました。 
「こいつめ!」 
 いっそうおこったウサギは、両足で人形をけとばしました。 
 両足もグチャッ。 
「これでもくらえ!」 
 つぎに、頭をドンとうちつけました。 
 頭もグチャッ。 
 とうとう体じゅうが、ベッタリとコールタールの人形にくっついてしまいました。 
 動こうとしても、動けません。 
 それを見ていたキツネは、草むらから、わらいをこらえながら出てきました。 
「おやおや、ウサギくん。なんともたいへんなかっこうだねえ。さんざんいばっていたおまえさんも、これでおしまいというわけさ。どれ、かれ草をつんで火をつけて、ウサギのまるやきをいただこうとするかな」 
 それを聞いたウサギは、とてもなさけない声でいいました。 
「ぼくは悪いウサギです。殺されてもしかたありません。キツネさん。どうぞ、火をつけてぼくをまるやきにしてください。・・・でも、ひとつだけおねがいです。野バラのしげみにだけは、入れないでください」 
「いや、火をつけるのはめんどうだからやめた。首つりにしてやるよ」 
「どうぞ、首つりにしてください。でも、野バラのしげみにだけは、入れないでください」 
「いや、首つりは、ひもがないからやめた。川にしずめてやるよ」 
「どうぞ、川にしずめてください。でも、野バラのしげみにだけは、入れないでください」 
「いや、このへんには川がない。川にしずめるのはやめた。いっそ、皮をひんむいてやる」 
「どうぞ、皮をひんむいてください。でも、野バラのしげみにだけは、入れないでください」 
「・・・そうか、野バラのしげみにだけは、入れてほしくないのか」 
 キツネは、ウサギのうしろ足をもってぶらさげると、「エイッ!」と、野バラのしげみめがけてウサギを力いっぱいなげつけました。 
「どうだウサギめ、まいったか」 
 キツネは満足そうに、野バラのしげみを見ていました。 
 すると、とつぜん、 
「ははーん。まぬけなキツネ」 
 遠くの丘で、ウサギがよんでいるではありませんか。 
「まさか!」 
 ビックリするキツネに、ウサギはとくいそうにいいました。 
「おれさまが、野バラのしげみの中で生まれたのをわすれたのかい? 野バラとおれさまは親 友同士で、野バラがおれを助けてくれたのさ」 
 ウサギはそういうと、ピョンピョンとはねて、どこかへいってしまいました。 
      おしまい 
          
         
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