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3月8日の世界の昔話
  
  
  
  三人兄弟
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 むかしむかし、ひとりの男がおりました。
 この男には三人の息子がいましたが、財産(ざいさん)といえば、すんでいる家しかありません。
  「息子は三人だが、家は一つしかない。さて、息子のだれにこの家をやろうか?」
 なやんだ男は、ある名案(めいあん)を思いついて、三人の息子をあつめていいました。
  「おまえたちは、これから好きな仕事をしなさい。やがておまえたちがかえってきたときに、だれでも一番すぐれたうでまえをみせたものに、この家はやるとしよう」
 この考えに、息子たちはうなずきました。
 それで長男はウマのかなぐつをうつかじ屋に、次男は髪の毛を切る床屋(とこや)に、それから三男は剣術(けんじゅつ)の先生になるといいました。
 それから三人は、かえってくる日をきめて、旅にでました。
 三人はみんな、それぞれの仕事について、りっぱなうでまえを身につけました。
 長男のかじ屋は、王さまのウマのかなぐつをうつまでになりました。
 次男の床屋は、金持ち専門の床屋になりました。
 三男の剣術の先生は、キズだらけになっても歯をくいしばってがんばり、とてもつよい剣術の先生になりました。
 さて約束の日になり、三人の息子は自分の家にあつまりましたが、それぞれの仕事がちがうため、どうやってうでくらべをすればよいのかわかりません。
 そこで三人が相談していると、三人の前に一匹のウサギがあらわれました。
  「おう、こいつはおあつらえむきだ」
 次男の床屋はそういうと、洗面器(せんめんき)に顔をそるための石けんをといて、走りさるウサギの顔にぬりつけると、よくきれるカミソリでウサギのヒゲだけをそりおとしたのです。
 それはあまりのはやわざで、ウサギは自分のヒゲがそられたことに気づきませんでした。
 もちろん、ウサギには傷ひとつありません。
  「こいつは気にいった! あとの二人がふんばらなきゃ、家はおまえのものだな」
  と、お父さんがいいました。
 まもなく、ひとりの紳士が馬車(ばしゃ)をとぶように走らせてきました。
  「こんどはわたしの出番です。さあ、お父さん、わたしのうでまえをみててください」
 長男のかなぐつ屋はこういって。馬車を追っかけていくと、走るウマからかなぐつを四つはずして、あたらしいかなぐつをウマの足に取りつけたのです。
  「こりゃ、たいしたもんだ! おまえのうでまえは弟にまけないぞ」
  と、お父さんはいいました。
  と、そこへ雨が降ってきたので、三男の剣術の先生がいいました。
  「お父さん、わたしにもひとつやらせてみてください」
 三男はじぶんの短刀をぬくと、それを頭の上で十文字にふりました。
 すると、雨はすべて短剣にはじかれてしまいました。
 そのうち雨はだんだん強くなって、しまいにはバケツをひっくり返したような大雨になりましたが、三男がすべての雨粒をはじいてくれたので、お父さんも長男も次男も、まるで屋根の下にでもいるように、からだはちっともぬれませんでした。
 お父さんはこれを見ると、ビックリして、
  「おまえのうでまえが一番だ。家はおまえのものにしよう」
  と、いったのです。
 長男も次男も、賛成(さんせい)しました。
 家は三男のものになりましたが、三人はその家に死ぬまでいっしょにくらしたそうです。
   いいえ、死んだ後も、三人はとてもなかよしだったので、ひとつのお墓(はか)に三人なかよくほうむられたということです。
おしまい