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        福娘童話集 > お薬童話 > 風邪(かぜ)の時に読む お薬童話 
         
        
       
命のランプ 
ギリシアの昔話 → ギリシアの国情報 
      
       むかしむかし、一人のヒツジ飼いが、山の上の小屋にすんでいました。 
 おくさんも子どももいないので、ヒツジを何よりもたいせつにしていました。 
 ある晩、ねるしたくをしていると、トントンと、戸をたたく音が聞こえました。 
「だれかね?」 
 入り口には黒い服を着た、青白い顔の女がたっていました。 
「わたしは『病気』です。一番いい子ヒツジをください。くれなければ、あなたをつれていきます。あなたはすぐに病気になって、死んでしまいますよ」 
「なんだって! かわいい子ヒツジをだれがやるものか。わしは丈夫だから、病気なんかにかかるはずがない!」 
 女は、だまって帰っていきました。 
 ヒツジ飼いが、やっとベッドに入ろうとすると、まただれかが戸口にやってきました。 
「だれかね?」 
「わたしは『災難(さいなん)』です」 
 『病気』の女より、やせた女でした。 
「一番いい子ヒツジをください。くれなければ、あなたをつれていきます。あなたはかならず、災難にあいますよ」 
「わしのかわいい子ヒツジは、だれにもわたさんぞ。わしはとっても用心ぶかいから、災難なんぞにあうはずがない」 
 女が帰ると、ヒツジ飼いはベッドに入りました。 
 まもなく、まただれかがやってきました。 
「わたしは『不幸(ふこう)』です。あなたをつれにきたのです。でも、一番いい子ヒツジをくれれば、つれていくのはやめます」 
 『不幸』は、ガイコツのような女でした。 
 ヒツジ飼いは、頭をかかえました。 
「不幸は、自分だけではふせげない。まわりからもやってくるから」 
 ヒツジ飼いはしかたなく、子ヒツジをさし出しました。 
「さあ、これをもっていくがいい」 
「いいえ、あなたがもってきてください」 
 ヒツジ飼いはしかたなく、女のあとからついていきました。 
 やがて、さびしい野原の城につきました。 
「これが、わたしたちのすまいです」 
 女がとびらをあけると、天井もかべもまっ黒で、数えきれないほどのランプがありました。 
 光が、うす気味悪くゆれました。 
「このたくさんのランプは、なんだろう?」 
 ヒツジ飼いがたずねると、女はいいました。 
「これは人間のいのちです。ランプがもえていれば、その人は生きている。消えれば死ぬのです」 
「じゃあ、わたしのランプもあるだろうか?」 
「もちろんあります。あれですよ」 
 それは、まだ油がたっぷりと入っていて、明るく、いきおいよくもえていました。 
 でも、すぐとなりには、今にも消えそうなランプがひとつ、さがっているではありませんか。 
「おお、気のどくに、だれのランプだろう?」 
「あれは、あなたの弟さんのです」 
 ヒツジ飼いは、ビックリしました。 
 これまでは、あまりなかのよくない弟でしたが、今にも死にそうに弱っていると思うと、むねがしめつけられそうでした。 
「おねがいだ。わしのランプから弟のランプヘ、油を少しうつしてやってくれないか」 
 ヒツジ飼いは、ふかく頭をさげました。 
「それはできません。油は一度入れたら、あとで入れたり出したりできないのです」 
「どうしても、弟を助けてやれないのか?」 
「ええ、どうしても」 
「なんだと! 子ヒツジは、もうあんたにはやるもんか! 弟が死にそうだと知ったら、わしはとても不幸になった!」 
 ヒツジ飼いは、かわいい子ヒツジをだきしめて、山の小屋まで走りました。 
 次の日のことです。 
 ヒツジ飼いが村へ行くと、教会の鐘(かね)が悲しくひびいて、だれかの死の知らせをしていました。 
 ヒツジ飼いは、村人にたずねました。 
「だれが、なくなったのですか?」 
「えっ、まだきいていなかったのかい? なくなったのは、あなたの弟さんですよ」 
 ヒツジ飼いは、ゆうべのランプがうそでなかったことを知って、ひどく悲しみました。 
      おしまい 
          
         
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