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        福娘童話集 > お薬童話 > お腹が痛いときに読む お薬童話 
         
        
       
ハチとアリ 
秋田県の民話 → 秋田県情報 
      
       むかしむかし、男鹿半島(おがはんとう→秋田県)に虫たちの国があり、その国にきれいなハチが住んでいました。 
 ハチの羽はきれいにすきとおっていて、まるで天女(てんにょ)の羽衣(はごろも)のようです。 
「なんてきれいんだろう。日の光にすかすと、虹のように色どりきれいなしまもよう出来る。おらは、この村で一番美しいんじゃ」 
と、ハチはわれながらうっとりです。 
 さて、おなじ村に住むアリはというと、いつもいつもドロンコになりながら働いています。 
 ハチは、働いているアリのところへ飛んできて言いました。 
「毎日毎日ごくろうじゃのう。でも、働くばかりじゃなくて、たまには海でも見てゆっくり休んではどうじゃ?」 
「海? 海ってなんだ?」 
「おや? アリさんは海を知らんのか? まあ、何と言えばいいのか。海はな、塩からい水が青く光っていて、ザブーン、ザブーンと波打ってるだよ」 
「ザブーン、ザブーンか。おもしろそうだな」 
「そうとも。それからな、その海に何がいると思う?」 
「さあ、知らねえ」 
「さかなだよ。さかながいるんだ」 
「さ・か・な?」 
「なんだ、さかなも知らんのか。さかなはな、すっごくおいしい食べ物なんだ」 
「へーっ、そんなにおいしいなら、食ってみたいな」 
「だがな、おらはこの美しい羽なら海までひとっ飛びじゃが、アリさんにはちょっとむりじゃな」 
「だいじょうぶ。ちゃんとハチさんについていくから」 
「よし、じゃあ、おくれないようについてこいよ」 
「わかった!」 
 アリは、空を飛ぶハチを必死で追いかけました。 
 やがて、一足先に海に着いたハチは、海につきだしている岩の上でひと休みです。 
「ああ、海はいつ来ても気持ちがいいな。・・・おや?」 
 ハチは、岩のまわりを泳いでいるニシンのむれを見つけました。 
「これはニシンじゃねえか。よしよし、一番大きいのを取ってやる。・・・今だ!」 
 ハチは飛びはねたニシンをつかまえると、おしりのハリでチクリとさしました。 
「よし、つかまえたぞ!」 
 そのころ、アリはやっと海に到着しました。 
「こいつが海というものか。海って、でっかいなー」 
 アリが感心していると、波にのって飛び出した大きなタイが空中へ投げ出されて、アリの目の前にドスンと落ちました。 
 そこへ、ニシンを持ってハチが飛んできました。 
「おーい、アリさん、やっと来たんだな。あんまり遅いんで、おらはもうニシンをつかまえたぞ。見てみろ、この大きなニシンを。・・・うん? ややっ、アリさん、これはなんともでっかいタイだな」 
「これは、タイというのか?」 
「そうだ。タイはさかなの王さまで、味は天下一品じゃ」 
「そうか、それはありがたい。ところでハチさん。ハチさんが持っているそのさかなは?」 
「これか? これはニシンじゃ。アリさんがあんまりおそいんで、もうとっくのむかしにつかまえたんだ」 
「さすがハチさん。・・・じゃが、ニシンよりもタイの方がでっかいし、赤くてうまそうだ」 
 そういうアリに、ハチがすりよってきていいました。 
「なあ、アリさん。おらは見た目にもきれいだし、美しい羽根も持っている。そのタイはおらの方がにあうと思うだが」 
「うん? とりかえっこをしてくれというのか? いやだ、ことわる」 
 そういってタイをかついで帰ろうとするアリに、ハチは追いかけていいます。 
「なあ、友だちのアリさん。このおらの美しさには、この赤いタイがお似合いなんだ。それに、お前さんの黒っぽい体には、ニシンの青黒い色はちょうどよくにあう。そうだと思わねえか」 
「思わん! とにかくタイはやらん!」 
「いいや、タイはおらで、アリさんがニシンじゃ!」 
「ハチさんが、ニシンじゃ」 
「なんだと!」 
「なにおー!」 
 こうしてハチとアリのけんががはじまり、二匹は村長のカブトムシに、どちらがタイをもらうかを決めてもらうことにしました。 
 ハチとアリの話しを、ジッと聞いていた村長がいいました。 
「よし、それではさばきをつける。ハチとアリよ、よーく聞くがいい」 
「はい」 
「へい」 
「まずハチよ。おまえは九九(くく)を知っとるか?」 
「はい、知ってます」 
「では、二、四が?」 
「八です」 
「そのとおり。二、四が八。つまり、ニシンがハチじゃ」 
「なるほど」 
「つぎに、アリよ」 
「へい」 
「人からものをもらったら、なんという?」 
「ありがたいです」 
「そう、ありがたいじゃ。つまり、アリがタイじゃ」 
「なるほど」 
「これによって、アリがとったタイはアリのもの。ハチがとったニシンはハチのものということじゃ。じゃが、お前たちは友だち同士、どっちがどっちでけんかするよりも、ニシンとタイをなかよく半分ずつにしてはどうじゃな」 
「なるほど、その手があったか」 
 村長の話になっとくしたハチとアリは、ニシンとタイを仲良く半分こして食べたそうです。 
      おしまい 
          
         
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