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12月29日の小話
他行
   どこの家でも、大みそかになると、一年中の借金を返して、さっぱりした気持ちになって新しい年をむかえます。
   ところが、このお店の主人は、大みそかになっても、借金がはらえそうにありません。
   そこで、店のこぞうに、
  「いいか、借金取りが来たら、『他行(たこう→外出すること)しています。』というのだぞ」
  と、いいつけて、二階にあがって、ねておりました。
   しばらくすると、米屋の番頭(ばんとう→従業員のリーダー)さんがやって来ました。
  「お米の代金をいただきにまいりました」
  と、いうので、こぞうが、いわれたとおりに、
  「だんなは、ただいま、他行しています」
  と、いうと、
  「それでは、またあとで」
  と、いって、帰っていきました。
   入れかわりに、今度は、酒屋のこぞうがやって来ました。
   そこで、こぞうが、
  「だんなは、他行しているぞ」
  と、いうと、酒屋のこぞうが、キョトンとして、
  「他行とは、何のことですか?」
  と、聞き返すので、
「バカめ! おまえは他行も知らんのか! 他行とはな、二階で、いびきをかいてねていることさ」
おしまい