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12月28日の小話

借金取りのこうでん
   十二月のおわりになりますと、一年の間に、たまりにたまった借金(しゃっきん)を取りに、どこのお店からもまいります。
   ある貧乏長屋(びんぼうながや→家賃の安い住宅 →詳細)の夫婦がおりました。
   十二月の三十一日になりますと、もう、ぜったいぜつめい。
   どうにもこうにも、借金がかえせません。
   そこで、いろいろ考えたすえに、いっそどちらかが死んだことにしようと、夫婦で話がまとまりました。
   さっそく女房が、かんおけを買ってきますと、亭主が、その中に入りました。
   そうこうしているうちに、米屋が、借金取りにやってきました。
   女房は、目につばをつけ、泣いたふりをして、
  「うちのひとは、きのう、ポックリ死んでしまったんです。このさき、どうしたらいいかわからない。いっそ、わたしも死んでしまいたい」
  と、いって、ワーッとなき声をはりあげると、米屋はあわてて、
  「まあまあ、短気をおこさないで。それにしても、ひとの命はわからんなあ」
  と、ふところから一両(7万円ほど)取りだし、
  「これは少しだが、これで、せんこうでもあげてやってくれ」
  と、いって、女房の手ににぎらせました。
  「そんな、とんでもない。借金があるのに、その上、こんなにもらうわけにはいきません」
   女房は気がとがめて、もじもじしていると、米屋は、
  「まあ、取っておきなさい。あんたも、これからたいへんだろう」
  「はい、・・・いえ、でも。やっぱりお返しします」
  「いいから、いいから」
   一両が、あっちいったり、こっちいったり。
   これをきいて、かんおけの中の亭主は、ふたのすきまから手を出して、
「えんりょするな、もらっとけ、もらっとけ」
おしまい