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12月7日の小話
かべのあな
   きんじょの子どもたちに、手ならい(習字などの勉強のこと)をおしえている先生がいました。
   もともとびんぼうでしたが、あるとき、にっちもさっちもいかなくなってしまいました。
  「なにか、いいくふうがないだろうか?」
   おかみさんにそうだんをすると、
  「こうしましょう。夜のうちに、家のかべをやぶっておくのです。朝、手ならいの子どもたちがきたら、『このあなから、どろぼうがはいって、家のなかのものを、あらいざらい、ぬすまれ、ひとつぶの米もない』といえば、子どもたちが気のどくがって、親にはなし、少しずつでも、お金をもってきてくれますよ」
  「なるほど、それは名案、それがいい」
   先生は夜をまって、家のかべにあなをあけると、
  「これでよし」
  と、ふとんにはいりました。
   さて、その夜なか。
   先生が、ふと目をさますと、男がゴソゴソと、かべのあなをふさいでいます。
  「だれだ、よけいなことをするのは!」
  と、どなると、
  「なにいってやがる。はいりもしないのに、わしらどろぼうのせいにされては、たまらん」
と、あなをふさぎつづけました。
おしまい