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12月4日の小話

おいしい目ぐすり
   むかし、あるお寺のおしょうさんが、いきのよいアワビを手にいれ、ひとりでこっそりたべようと、ほうちょうをとりだしました。
   そこに、近所の人たちが、法事をたのみにきたので、おしょうさんはあわてて、アワビをかくそうとしました。
   お寺では、生きものをたべてはいけないことになっているからです。
   近所の人たちに、アワビをみつけられたおしょうさんは、
  「この貝は、目のくすりになるときいたが、目がしらにさしたらよいのか、目じりにさしたらよいのか、わからんのじゃ」
  と、ごまかそうとしました。
   けれど、みんなは、おしょうさんのうそをおみとおしです。
   仏さまの教えにそむくおしょうさんを、このさい、こらしめてやろうと、しめしあわせました。
  「ずいぶん、めずらしい目ぐすりですねえ。わたしどもがさしてやりましょう。まず、あおむけになってください」
   近所の人たちは、アワビにたっぷりと、酢(す)をつけ、目のうえにのせました。
  「ひいーっ、いたい、いたい、いたい! しみてしみて、目の玉がはれつしそうじゃー!」
   おしょうさんがのたうちまわっているのをよこ目に、近所の人たちは、
  「おう、うまいうまい。この目ぐすり、口からさしたほうが、ききめがたしかでござる」
 みんなで、アワビのさしみに、したつづみをうちました。
おしまい