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8月23日の小話

ひとえのゆうれい
   ばくち(ギャンブル)のすきなあるじが、今日もすっかりまけて、ふんどしひとつの、まるはだかで帰ってきました。
  「ああ、寒くてしょうがねえ。何か、きるものはねえか?」
  「あるもんですか! みんなおまえさんが、ばくちですってしまったんですよ!」
   おかみさんは、涙ながらにいいました。
   あるじは、おかみさんがきているものをながめました。
   そまつですが、うらのついた、あわせの着物をきています。
  「おい、その着物をほどいて、うらとおもての二まいにして、一まい、おれにくれ」
   あるじにいわれて、おかみさんは、しぶしぶあわせの着物をほどくと、あるじにうらをわたしました。
  「おまえさん、おねがい。もう、ばくちは、やめておくれよ。この寒いときに、ひとえの着物では、ほんとに死んでしまうよ。死んだら、ゆうれい(→詳細)にばけて出てやるからね」
   おかみさんが、うらめしそうにいいました。
   それからまもなく、おかみさんは、ほんとうに死んでしまって、あるじのところにばけて出ました。
  「うらほしやあー」
「きものの、うらほしやー」
おしまい