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        福娘童話集 > お薬童話 > 風邪(かぜ)の時に読む お薬童話 
         
        
       
イワナの坊さま 
      
       むかしむかし、山ふかい谷川でのことです。 
 その日は朝から、山ではたらく男たちがあつまってきて。 
「きょうは祭りだもの、どくもみをして、川のごちそうをドッサリとるべえ」 
 男たちはウキウキしながら、したくにとりかかります。 
 サンショウの木のかわをはぎとってきざみ、なべでグツグツとにつめ、その煮汁に石灰と木の灰をまぜ、さらににつめて、いくつもの小さなダンゴにまるめます。 
 これで魚をとる、どくダンゴのできあがりです。 
 どくもみとは、このどくダンゴで魚を殺してつかまえることです。 
 すっかり用意ができて、男たちはべんとうをひらきました。 
 祭りの日しか食べられない、ダンゴとアズキめしのごちそうです。 
 ところが、ふと気がつくと、そばにひとりの坊さまが立っています。 
 目のするどい、年とった坊さまです。 
「おや、坊さま・・・」 
「おまえたちは、このふちで、どくもみをするらしいのう。だがな、つりをするならばともかく、どくもみだけは、けっしてするなよ」 
 男たちは、だまったまま顔を見あわせました。 
 どくダンゴをふちになげこむだけで、たくさんの魚がとれます。 
 坊さまにいわれたからと、やめてしまうのはもったいない。 
 坊さまはさとすように、いいました。 
「どくもみはのう、おまえたちにとっては、かんたんに魚がとれておもしろかろう。だがな、ふちの魚たちはぜんぶ死んで、それこそ根だやしになってしまうのじゃ。みなごろしとは罪ぶかいことじゃぞ。なにはともあれ、やめなされ」 
 すると、力じまんのひげ男が、ペコリと頭をさげて、 
「へえ坊さま、かんがえなおしますので、まあまあ、これでもめしあがってくだされ」 
と、ダンゴとアズキめしをさしだしました。 
「そうか、やめてくれるか。それはよかった。・・・では、ごちそうになろうかの」 
 坊さまは、パクリパクリと、のみこむように食べると、どこへともなく、たちさりました。 
「どこの坊さまかは知らんが、ああいわれてはなあ・・・」 
「せっかく用意したが、やめにするか・・・」 
と、男たちはいいあいました。 
「いやまて。やめてはつまらん。おれひとりでも、どくもみはするぞ」 
 ひげ男がいいました。 
 そこでみんなも、いっしょにどくダンゴをふちになげ入れました。 
 しはらくまつうちに、つぎつぎとたくさんの魚がうきあがってきて、おもしろいほどとれます。 
 さいごにすがたをあらわしたのは、見たこともないような大イワナです。 
「これは、ふちの主かもしれねえ」 
 バシャバシャとあばれるのを数人がかりでおさえこみました。 
 つかまえたえものを村へもちかえると、女や子どもたちが、よろこんでとりかこみます。 
 まず小魚をわけあってから、最後に大イワナを切りわけることになりました。 
 ひげ男が、ズバリとはらを切りさくと、 
「ややっ・・・こ、これは!」 
 なんと、大イワナのはらの中から、ダンゴとアズキめしがでてきたのです。 
「・・・・・・」 
「・・・・・・」 
 男たちの顔が、まっさおになりました。 
「さては、あの坊さまが・・・」 
「あっ! この大イワナ、死んでもまだ、ギロリと目をむいたぞ」 
 こわくなった女や子どもたちが、にげだしました。 
「おら、いらねえ」 
「おらもえんりょする」 
 男たちも、コソコソとにげました。 
「だらしねえやつらじゃねえか」 
 ひげ男は大イワナをひとりで家に持ち帰ると、ぜんぶ食べてしまいました。 
 さて、その日からしばらくして、ひげ男の家では、ひげ男をまっさきに、つぎからつぎへと家の者が死んで、とうとう根だやしになってしまったということです。 
      おしまい 
          
         
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