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        福娘童話集 > お薬童話 > お通じを良くするお薬童話 
         
        
       
クモおんな 
      
       むかしむかし、とっても気の強いひとりのお坊さんがいました。 
 そのお坊さんは、チンカンチンカンと、かねをたたきながら、村から村へ旅をして歩くお坊さんです。 
 ある日の夕がた、お坊さんが、山をおりて小さな村里に入ったとたん、雨がふってきました。 
 かまわずぬれて歩いていましたが、そろそろ日もくれようというのに、雨はぜんぜんやみません。 
 お坊さんは、近くのお百姓(ひゃくしょう→詳細)の家の戸口にたって、頭をさげると、 
「この雨でなんぎしております。どうかひとばん、とめてくださるまいか」 
「へえ、とめてあげてえのはやまやまだども、あいにく今夜は客があってなあ」 
 その家のおかみさんは、雨のしずくをポタポタたらしているお坊さんを、気のどくそうにみました。 
「このさきに、とまれるとこがあるにはある、和尚(おしょう→詳細)さんのいねえ古寺だ」 
 旅のお坊さんは、それをきいて雨のなかを歩きだしました。 
「あ、ちょっとまってけさえ」 
 おかみさんはお坊さんをひきとめると、にぎった焼きめしをひとつ、さしだしました。 
 お坊さんは、ずぶぬれになって、その古寺にたどりつきました。 
 草がおいしげったけいだいをつっきって、寺に入ったお坊さんはビックリ。 
 なかはいちめんクモの巣だらけで、かびのにおいのしみついた、とてもとてもひどいあれ寺だったのです。 
「日のくれぬうちに、まずは、たきぎを」 
 お坊さんは、えんの下にたきぎをみつけると、いろりでもやしました。 
 お坊さんは、ぬれた衣をぬぎ、いろりの火にかざしてかわかすと、 
「おお、そうじゃ。焼きめしじゃ」 
 お坊さんはおもいだして、焼きめしをほおばりました。 
 からだはあたたまり、ばんごはんもたべたので、お坊さんはそのままゴロリと横になると、グーグーとねてしまいました。 
 それから、どれくらいたったころか、だしぬけにガタン! とでかい音がして、お坊さんは目をさましました。 
「ひどい音がしたようだが、なにごとか」 
 しばらくジッと耳をすましましたが、なにごともありません。 
 お坊さんは、火のきえかけたいろりに気づいて、たきぎを一本とりあげました。 
と、そのとき、 
 キシッ、キシッ、キシッ、キシッ。 
と、本堂のほうから、板の間をふんで近づいてくる音がして、やぶれしょうじがスーとあきました。 
「なにもの!」 
 お坊さんは、サッと、たきぎを持ちかえると、かたひざをたてて身がまえます。 
 いろりの火が、ユラユラともえあがり、そのゆれるあかりのなかにあらわれたのは、灰色の着物にほっそりと身をつつみ、むねに赤んぼうをだいた女の人でした。 
(こんなひどいあれ寺に、女がすんでおったとは) 
と、さすがのお坊さんも目をみはりました。 
 女は、いろりのあかりをさけるようにうつむいたまま、す足でヒタヒタとお坊さんのそばにきて、ペタリとすわりました。 
 そして、力のない声でいいました。 
「おねげえがあるんだけども。どうかひとばん、この子を、あずかってもらえんか。たのむから、わけはきかねで、あずかってくだせえ」 
 お坊さんは、どうせ今夜はとめてもらうのだし、よほどふかいわけがあるのだろうと、その赤んぼうをあずかることにしました。 
「ありがとうございます」 
 女はれいをいうと、赤んぼうをころがすようにそこにおいて、たちあがりました。 
 しょうじがスーッとしまり、キシッ、キシッと、いう音が遠ざかっていきます。 
 するとどうでしょう。 
 今まで上をむいて手足をバタバタさせていた赤んぼうが、ゴロンと、ねがえりをうち、お坊さんのまわりでハイハイをはじめました。 
 それが、べつになにかをみつけてとりにいくというのでもなく、ただ、「ウバッ、ウバッ」と、かわいいひとりごとをいっては、一ど、二ど、三どと、お坊さんのまわりをグルグルまわりつづけるだけです。 
「みょうな赤子(あかご)じゃ」 
 おなじところを、グルグルとはいまわる赤んぼうをみているうちに、お坊さんは、ふと、首のところをしめつけられるような気がしてきました。 
 その力が少しずつ強くなっていくようで、ふしぎにおもったお坊さんが、首に手をやろうとしたとたん、ギリギリギリと、ひどい力でしめつけてきたのです。 
 お坊さんは、くるしさに首をかきむしり、もがきながらも赤んぼうをみると、もう、はいまわることもなく、じっとこちらをうかがっているではありませんか。 
「さては、ばけもの・・・」 
と、さけぼうとしましたが、声がでません。 
 つぎのしゅんかん、バリッと音たてて、てんじょう板の一まいがはずれました。 
 そして、なんと赤んぼうが、スルスルとてんじょうにあいた穴にむかって、のぼりはじめたではありませんか。 
「うっ、にがすものかっ」 
 お坊さんは、くるしまぎれにそばにあったたきぎをつかむと、力をこめてなげつけました。 
「ギャーッ!!」 
 ひと声、ものすごいさけびがあたりにひびきました。 
 朝になって、きのうのお百姓のおかみさんが、だんなといっしょに古寺へやってきました。 
「ゆうべは、すまんことしたなあ。ぶっこわれの古寺で、なんぎしていると、しんぱいでみにきたんだ」 
 そういうて、ふたりがあがりこむと、お坊さんは、いろりのふちに気をうしなってたおれていました。 
「坊さま、坊さま」 
と、ゆりおこされて、やがて気がついたお坊さんは、ふたりにわけをはなしてきかせます。 
 だんなとおかみさんは、お坊さんをたすけて、おそるおそるてんじょううらをのぞいてみてビックリ。 
 いちめんに、人の骨がちらばっており、かたすみの骨の山の上では、おそろしく大きなクモの親子らしいのがうずくまっています。 
 よくみると、親ぐもが死んだ子ぐもをかかえて、身動きひとつしないでいるのでした。 
「そうか、夜中のばけものはクモであったか」 
 そのあと、お坊さんは村人にたのまれてその古寺の住職(じゅうしょく)になり、てんじょううらの骨を手あつくほうむりました。 
 そして、二匹の親子グモの死がいも、 
「子を思うきもちは、人間もクモも同じ事。じょうぶつせいよ」 
と、いって、ふかぶかと土にうめてやったそうです。 
      おしまい 
          
         
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