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        福娘童話集 > お薬童話 > お腹が痛いときに読む お薬童話 
         
        
       
舌をぬくおばけ 
      
       むかしむかし、ある村の男たちが話しておりました。 
「八畳(はちじょう)のざしきに、八人でとまると、おばけがでるっちゅうぞ」 
「そんなこと、あるもんか」 
「いや、ほんとにでるっちゅう話だ」 
「それなら、ためしに、とまってみるとしよう」 
 こうして、村はずれのあき家の八畳のざしきに、八人してとまることになりました。 
 さて、そのばんのうしみつどき(午前二時ごろ)。 
 八人のうち、七人はグッスリとねむってしまいましたが、たいそうこわがりの男が、一人だけねむれませんでした。 
(おばけがでるのかな? 妖怪がでるのかな? それともゆうれいかな? どれにしてもこわいよー) 
 ふとんの中でブルブルふるえていますと、ざしきの戸が音もなく開いて、てぬぐいをかぶった若くて色の白い女の人が、けむりのように入ってきました。 
 女の人はねている男の枕元にすわると、顔をピタリとくっつけて、男のくちびるをすってはニヤリと笑うのです。 
 女の人はつぎつぎと男たちのくちびるをすっては笑い、ついに、ねむれないでいる男のところにきました。 
 男はふとんをはねのけると、 
「おばけだー! たすけてくれー!」 
 むがむちゅうで、家へと逃げ帰りました。 
 あくる日、男が村の人たちと、あの空き家に行って八畳のざしきをのぞいてみると、七人が七人とも、舌を抜かれて死んでいました。 
 このことがあってから、しばらくたったある日のこと、男はたびにでかけました。 
 とちゅうで日がくれてしまったので、一けんの家をみつけてやどをたのむと、 
「それはお困りでしょう。さあ、どうぞ」 
 女の人が、しんせつにとめてくれました。 
 男がごはんをごちそうになってから、 
「おらの村で、じつは、こんなおそろしいことがあったんだよ。八畳に八人でとまるとおばけがでるといううわさなので、ためしにとまってみるとな。そのばんのうしみつどき。ざしきの戸が音もなくあいて、てぬぐいをかぶったわかくて色の白い女が、スゥーッと入ってきたんだ。そして、男のくちびるをすっては、ニヤリとわらっただよ」 
と、あのばんのできごとをはなすと、 
「それはもしかして、こんな顔では・・・」 
 女の人は手ぬぐいをかぶって、ニヤリとわらいました。 
「うわぁー! でたー!」 
「こんやは、にがさないよ」 
 男はにげだそうとしましたが、あっという間に舌を抜かれてしんでしまいました。 
      おしまい 
          
         
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