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        福娘童話集 > お薬童話 > お通じを良くするお薬童話 
         
        
       
ネコの大芝居 
      
       むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。 
 若い時から、二人でいっしょうけんめいはたらいてきましたが、ちっともくらしが楽になりません。 
 それでもこうして、たっしゃでくらせるのは、神さまのおかげと、不平も言わずに生きてきました。 
 ある日、おじいさんが言いました。 
「わしらにも、子どもがあるとよかったのに」 
「ほんにのう。せめてネコの子でもいてくれたら、うんとかわいがってやるのに」 
 するとその日の夕方、どこからともなく一匹のぶちネコが、まよいこんできたのです。 
「こりゃあ、きっと神さまがさずけてくださったにちがいない」 
「今日からわしらの子どもにしましょう」 
 おじいさんもおばあさんもよろこんで、このネコにぶちという名前をつけ、それはそれは大事に育てました。 
 ぶちもすっかり二人になついて、どこへでもついてきて、ニャアニャアとあまえます。 
 二人はぶちがかわいくて、かわいくて、おいしいものがあると、自分たちが食べないでも、ぶちに食べさせます。 
 こうして十三年もたつうちに、かわいかったぶちは、まるでイヌほども大きくなりました。 
 自分でしょうじの開け閉めもできれば、るすばんだってできますが、なんとなく動きがにぶくて、庭に飛んでくる小鳥にまで、からかわれるしまつです。 
 ところがぶちよりも、おじいさんとおばあさんのほうが、もっとからだが弱ってきて、畑仕事や川へ洗たくに行くのもしんどくなってきました。  
 ある晩、おばあさんが言いました。 
「おじいさん、わしらもずいぶん年をとったけど、ぶちも人間ならわしら以上の年よりになった。これじゃ、わしらが先に死ぬか、ぶちが先に死ぬかわからん。うまいぐあいに、ぶちが先に死んでくれたらいいが、わしらが先に死んだら、だれもめんどうを見るものがない」 
「そうよのう。できることなら、みんないっしょにあの世へ行けたらうれしいのに」 
 ぶちは、いろりのふちでいねむりをしながら、二人の話を聞くともなしに聞いていましたが、とつぜんからだを起こすと、二人の間にすわり、前足をきちんとそろえて言いました。 
「おら、長い間二人にかわいがってもらいましたが、そろそろおひまをいただきたい」 
 ネコがいきなり口をきいたので、おじいさんもおばあさんもビックリして顔を見あわせます。 
 それでも、おばあさんがあわてて言いました。 
「まさか、おまえに人間のことばがわかるとは思わなかったので、とんだ話を聞かせてしまった。なあに、わたしらはまだまだ元気だ。安心してここにいてくれ」 
 おじいさんも、ぶちの背中をなでながら、 
「かわいいおまえを残して、だれが死ぬもんか。死ぬ時はおばあさんもおまえもいっしょじゃ」 
と、言いました。 
 すると、ネコが、 
「二人の気持ちは、おら、涙が出るほどうれしいです。でも、やっぱりこれ以上、心配をかけるわけにはいきません。ところで、二人とも芝居(しばい)が大好きでしたね。かわいがってもらったお礼に、芝居を見せたいと思いますが、どんな芝居がいいですか?」 
「芝居なんかいいから、ぜひ、このままいっしょにいてくれ」 
「いいえ、おらも、そろそろなかまのところへもどりますから」 
 そう言われ、おじいさんもおばあさんも、ひきとめることはできませんでした。 
「さあ、どんな芝居を見たいか、早く言ってください」 
「そうさな・・・」 
 なにしろ芝居を見たのは、うんと若い時で、それも忠臣蔵(ちゅうしんぐら)という芝居を一回きりです。 
「そうだ、忠臣蔵が見たい」 
 二人が同時に言いました。 
「よろしい。そんなら忠臣蔵をはじめから終わりまで、たっぷり見せてあげましょう」 
 ぶちが、ピンとひげをのばし、 
「では、ほんとうに長い間お世話なりました。来月三日のお昼、どうか、うら山のあき地へ来てください」 
 そう言うと、おばあさんにつけてもらった首の鈴(すず)を鳴らしながら、家を出ていきました。 
「ああ、あんなことを言わなければよかった」 
 二人は、ガッカリして頭をかかえます。 
 次の日からは、ぶちのいないさみしい暮らしです。 
「ああ、ぶちに会いたい」 
「早く三日が来ないかな」 
 おじいさんもおばあさんも、三日の日が来るのをゆびおり数え、やがて、三日がやってきました。 
 おじいさんとおばあさんは、お昼になるのを待ちかねて、うら山へのぼって行きます。 
 でも、あき地には大きな石がころがっているだけで、だれもいません。 
「ネコは年をとると化けるというが、こりゃ、ぶちのやつにだまされたのかな?」 
「いいえ、うちのぶちは、そんなネコじゃありません。きっとやってきます」 
 二人で話しあっていると、近くの草むらで、チリリンと鈴の音がしました。 
「それ来た。あの鈴の音はぶちの首のものにちがいない」 
 そう言って、おばあさんが立ちあがると、草の中からヒョイとぶちが現れ、 
「おじいさん、おばあさん、よく来てくれました。さ、そこの石にすわって、ゆっくり見物していってください」 
 ていねいに頭をさげると、草の中に姿を消しました。 
 そのとたん、チョンという拍子木(ひょうしぎ)の音がひびいて、草原の中にりっぱな舞台(ぶたい)が現れました。 
 後ろには、白いまくもはってあります。 
「こりゃ、ほんものの舞台だ!」 
 二人が、ビックリしていたら、さっと幕(まく)が開いて、役者が次つぎと舞台へ出てきました。 
 どの役者もきれいな衣装(いしょう)をつけていて、後ろには、三味線(しゃみせん→詳細)をひく人や歌をうたう人がずらりと並んでいます。 
 やがて芝居(しばい)が始まりました。 
 どの役者も、じつに芝居がじょうずで、二人はただもう、むちゅうで舞台をながめました。 
「いいなあ、うまいなあ」 
「なんてきれいだ」 
 出てくるのは、かんどうのため息ばかりで、いつまで見ていても、あきることがありません。 
 幕が開いては閉まり、閉まっては開き、忠臣蔵(ちゅうしんぐら)の長い芝居が終わった時には、まるで夢の中にいる気分です。 
「よかったね。おじいさん」 
「ああ、こんなりっぱな芝居を見るのは、生まれてはじめてじゃ」 
 二人がホッとして、もう一度前を見たら、舞台はあとかたもなく消えていて、もとの草原に変わっています。 
「ニャア」 
 その時、どこかでネコの鳴く声がしました。 
 でもぶちは、それっきり、二度と姿を見せなかったそうです。 
      おしまい 
          
         
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