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        福娘童話集 > お薬童話 > お腹が痛いときに読む お薬童話 
         
        
       
おかみすり 
      
       むかしむかし、ある山寺に、すなおで正直な小僧さんが、和尚(おしょう→詳細)さんと二人ですんでおりました。 
 ある日のこと、小僧さんがそうじをしていると、和尚さんが帰ってきました。 
「和尚さま、お帰りなさい」 
「おほん! そうじはすみからすみまでていねいに、時間をかけてな、わかっとるやろな」 
 などといいながら、和尚さんはすまして自分のへやへむかいます。 
 そのとき、さいふを落としたのに気がつきません。 
 和尚さんは、まわりをキョロキョロ見まわしてからへやへ入り、そうっとしょうじをしめた。 
 ところでこの和尚さん、川魚のアユが大こうぶつです。 
 そのころのお坊さんは、魚を食べてはいけないことになっていました。 
 だから和尚さんは、いつもこっそりかくれて、アユを食べていたのです。 
 きょうもまた、こっそりアユを食べようと、ふところからつつみを取り出して、 
「まったく、アユちゅう魚は、すがたといい、かおりといい、味といい、天下一品や」 
と、和尚さんはニンマリ。 
 そのとき、しょうじが開いて小僧さんが顔を出しました。 
「和尚さま、さいふを・・・。あれっ? 和尚さまは魚を食べてはるんですか?」 
「いやその、こ、これは魚じゃないぞ」 
「では、なんなんですか?」 
「おほん、これはな、おかみすりというもんや」 
「おかみすりって、あの頭をそるときのでござりますか?」 
「そうや、わしはこのおかみすりが大すきでのうっ」 
と、いいながら、和尚さんはアユをおいしそうに食べました。 
 さて、つぎの日。 
 小憎さんは、遠いところまで法事(ほうじ)に出かける和尚さんのおともをすることになりました。 
「そうや! いただいたかさを持っていって、だいじにしているところを見せんとな」 
と、雨もふっていないのに、小僧さんにかさを持たせました。 
「ではいくぞ、おとなしくついてくるんだぞ」 
「へえ〜い」 
 和尚さんの乗ったウマが、パッカパッカといくあとを、小僧さんはかさをかかえてついていきます。 
「小僧や、川やぞ!」 
 大きな川を、ウマに乗った和尚さんは、ザッパ、ザッパとわたります。 
 小僧さんも、いっしょうけんめい追いかけました。 
と、たくさんのアユが、川のあちこちにいるではありませんか。 
 小僧さんは、前をいく和尚さんに大声でいいました。 
「和尚さま、いつも食べておられるおかみすりちゅうもんが、ほれ、たくさん泳いどります。和尚さまこうぶつのおかみすりが」 
 そばを通りかかった旅人が、おかしそうに顔を見あわせました。 
 和尚さんは、あわてていいました。 
「ばかもの。なにをねぼけておる。急ぐんや」 
「ええ〜っ?」 
 和尚さんは、あとをついてくる小僧さんに、こういいました。 
「ええな、なにごとも聞いたら聞きながし、見たら見すごして、なにがおきてもだまってついてくるんや」 
「へえ」 
 小僧さんは首をかしげるばかりです。 
 パカパカ、パカパカ。 
 ウマに乗った和尚さんのあとから、小僧さんはだまってついていきました。 
 すると、また川がありました。 
「小僧や、また川やぞ。ものをおとすでないぞ」 
と、いう和尚さんが、川のとちゅうで、タバコ入れを落としました。 
「あっ、タバコ・・・」 
 あわてて口をおさえた小僧さんは、流れるタバコ入れを見送りました。 
(そうや、なにがおきてもだまってついてこい、そういわはった) 
 そうしてまた、しばらくすると、ウマからおりた和尚さんがいいました。 
「ここらで、いっぷくしよか」 
 道ばたの石にこしかけた和尚さんが、タバコ入れをさがします。 
「はて? タバコ入れがないぞ。おまえ、落ちたのに気づかなんだか?」 
 小憎さんは、口をモゴモゴさせて、あわてて手でおさえました。 
「なんや、ハッキリいうてみい」 
「へえ、二つめの川で、ウマがちょいとこけたとき、ポチャンと落ちてプカプカ流れていきました」 
「なんでひろわないのや!」 
「ひろおうと思うたけど、なにがおきてもだまってついてこいて、えらいおこられましたやろ。ほんで」 
 和尚さんはあきれかえって、小憎さんをどなりつけました。 
「ばかもん! これからは、ウマから落ちたもんがあったら、なんでもひろうんや、ええな!」 
「へ〜い」 
 いまさらどうしようもないので、二人は一休みすると出発しました。 
 パカッパカッ。 
 法事のある家までは、まだまだ長い道のりです。 
 そのうち、和尚さんが乗ったウマが、おしりから、ポタポタ、ポタポタと、なにやら落としはじめました。 
 小僧さんは、(ウマから落ちたもんがあったら、なんでもひろうんや)といった和尚さんのことばを思いだし、 
「けど、どうしてひろうたらええやろ。・・・そうや!」 
 小僧さんは、ウマのすぐ後ろまで走っていって、持っていたかさをひろげると、 
「よいしょっと」 
 落ちるフンを、かさでうけとめました。 
「ほい、やっ。こらよっ。和尚さま、ウマから落ちたもんがいっぱいで、もう持てません」 
「なんやて?」 
 ふりむいた和尚さんは、もうビックリ。 
「ばかもん! 大切なかさで、そんなもんを! ぜ〜んぶ川にすててくるんや!」 
「でも、ウマから落ちたものは、なんでもひろえと、和尚さまがいわはった」 
「ばか正直にもほどがある。はよう! きれいさっぱり流してこい」 
「へ〜い!」 
 小僧さんは、あわてて川のほうへ走っていき、川でかさをあらいながら首をかしげていました。 
「和尚さまのいわはるとおりしとるのに、なんでしかられるんやろ」 
 そのとき、きれいに洗ったかさの中に、川を泳いでいたアユが入ってきました。 
 川岸で見ていた和尚さんは、そのアユがほしくてたまりません。 
「ほほう、みごとなアユじゃ。小僧のやつ、あのまま持ってくればよいが」 
 和尚さんがそう思っているのも知らず、小僧さんは、 
「きれいなおかみすりやあ。けど、和尚さまはぜんぶ川にすててこいといわはった。そうや、かさもぜんぶすてなくちゃいかんのや」 
と、かさをポーンと投げすててしまいました。 
 かさは川のまん中に落ちて流れていきます。 
「和尚さま、おいいつけどおり、ぜんぶ流しておきましたあ」 
「ああ、わしのこうぶつのアユばかりか、大切なかさまでも。とほほほ」 
 かさはドンドンながれていって、ついに見えなくなりました。 
      おしまい 
          
         
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