| 
      | 
     
        福娘童話集 > お薬童話 > お腹が痛いときに読む お薬童話 
         
        
       
いうな地蔵 
      
       むかしむかし、あるところに、すぐにけんかをする、あばれもののばくちうちがいました。 
 大きなからだの力持ちですが、はたらきもしないで、 
「なにかええことはねえもんかなあ」 
と、まいにち、ブラブラしています。 
 ところがある日、ばくちうちは、 
「おれもこの土地さえでたら、ちったあ運がまわってくるかもわからん」 
と、考えて、ヒョッコリと旅に出ました。 
 けれども、運がまわってくるどころか、持っていたお金をすべて使い果たしてしまい、 
「あーあ、はらはへってくるし、銭はなし。どうしたものか」 
と、とほうにくれて、とうげのお地蔵(じぞう)さんの前にこしをおろしていると、下のほうから大きな荷物を重そうにかついでくる、ひとりの男がいました。 
「これはしめた。あのなかにゃ、うめえもんがどっちゃりへえってるにちげえねえ。ひとつ、あいつを殺してとってやれ」 
 ばくちうちは、近づいてきた男に声をかけました。 
「おいこら! いったいなにかついどるんじゃい!」 
 いきなりどなられた男は、ギョッとして、 
「こっ、こりゃ食いもんじゃ」 
「そんなら、みんなおいていけ! 銭も持ってるなら銭もだせえ!」 
と、ばくちうちは男のかついでいる荷物をつかむと、むりやりひきずりおろそうとしました。 
「い、いや、これはやれん。うちに持ってかえって食わせなならん。子どもらが、はらすかしてまっとんじゃ」 
「そんなことはしらん! よこさんと殺すぞ!」 
 ばくちうちは荷物を取り上げると、必死に取り返そうとする男をなぐりつけて、とうとう殺してしまいました。 
「ふん! すぐにわたさん、おまえが悪いんじゃ」 
 ばくちうちはまわりを見わたして、人がいないことを確かめると、そばにあったお地蔵さんにいいました。 
「おい。見ていたのはおまえだけじゃ。だれにもいうなよ」 
 そして、そのまま荷物を持って立ち去ろうとすると、お地蔵さんが、とつぜんしゃべりました。 
「おう、わしはいわんが、わが身でいうなよ」 
 そして、ニヤリとわらったのです。 
「じ、地蔵がしゃべった!」 
 ビックリしたばくちうちは、いそいで荷物をかつぐと、山道をころげるように走り去りました。 
 それから何十年もすぎた、ある日のことです。 
 あのばくちうちは、まだ旅をしていました。 
 今ではずいぶん年もとって、どちらかといえば、人のよいおじいさんになっていました。 
 旅のとちゅうで、ひとりのわかものと知りあい、そのわかものとすっかり仲がよくなって、ずっといっしょに旅をつづけています。 
「あの山をこえたところに、おらのうちがあるんじゃ。ぜひよっていってくれ」 
 わかものにそうさそわれて、ばくちうちは、 
「そうか。では、ちょっとよせてもらおうか」 
 話がまとまり、さっそくいそぎ足になったふたりがさしかかったのが、あのお地蔵さんのあるとうげでした。 
 ばくちうちがお地蔵さんを見てみると、あの日のことなどまるでうそのように、お地蔵さんの口は一の字にしまっています。 
 ばくちうちはつい、なかのよいわかものに、このお地蔵さんのことをしゃべりました。 
「おい、おもしろいこと教えてやろうか?」 
「ああ、なんじゃ」 
「じつはな、この地蔵さんはしゃべるんじゃ」 
「お地蔵さんがしゃべったりするかえ」 
「ほんとうじゃ。げんにこの耳で、ちゃんときいたんじゃ」 
「じゃ、なんてしゃべったね」 
 そうきかれて、ばくちうちは、 
「いいか、ぜったいにだれにもいうてくれんなよ。おまえだけにいうんじゃでなあ。ぜったいじゃぞ」 
 なんどもなんどもねんをおすと、 
「もう、ずいぶんむかしのことじゃ。そのころはまだ、おらもわかかったで、ずいぶん悪いこともしてきた。・・・じつはおら、ここで人殺してしまったんや。その殺した男というのが、・・・」 
 わかものに、あの日のことを全部話してしまいました。 
 それを聞いていたわかものの顔が、えんま大王のように、みるみるまっ赤になってきました。 
「うん? どうした、こわい顔をして」 
 わかものは、ばくちうちをにらみつけると、 
「それはおらの親じゃ、かたきうちをしてやろうと、こうして旅をしながらさがしていたが、かたきはあんたじゃったのか。おのれ、親のかたき! かくご!」 
 わかものはそうさけぶなり、ぬいた刀できりかかりました。 
 ふいをつかれたばくちうちは、あっというまに、殺されてしまいました。 
 そしてそのとき、あのお地蔵さんがしゃべったのです。 
「ばかな男じゃ、わしはだまっていたのに、自分でしゃべりおったわい」 
      おしまい 
          
         
  | 
      | 
     |