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        福娘童話集 > お薬童話 > お腹が痛いときに読む お薬童話 
         
        
       
海ぼうず 
      
       むかしむかし、あるところに、荷物船でにぎわう港がありました。 
 あるときのこと。 
 夏だというのに、今にも雪がふりだしそうな、はだ寒い天気です。 
 船頭たちが集まって、 
「どうしたわけだ。寒うてかなわん」 
「おかしな日よりじゃ。こんな日は、船をださんほうがええ」 
「ああ、なにがおこるか、わからんからな」 
と、はなしあっておりました。 
 すると、ひとりの船頭が、 
「なあに、一日休めばそれだけだちんがへるわ。ゆうれい船でも海ぼうずでも、でてきよったら、とっつかまえてやるわい」 
と、人がとめるのもきかずに、ひとりで荷物船をあやつって、港をでていきました。 
 ところが、おきへでていくらもしないうちに、 
「おうい、おうい」 
と、だれかが、よぶ声がきこえてきたのです。 
「はて、こんな海のなかで、なんじゃろ」 
 ろを休めてあたりをみわたしましたが、なにもみえません。 
「ふん、そら耳か」 
 船頭はまた、ろをこぎはじめました。 
 そんなことが、二ど、三どとつづきましたが、船頭はたいして気にとめず、船をすすめていると、こんどはすぐ後ろから、 
「おうい、おうい」 
と、きこえたのです。 
 おもわずふりかえってみると、生白いものが、大きくなったり小さくなったりしながら、船のうしろにとりついていました。 
「これは、海ぼうずだ!」 
 船頭は、あわててひしゃくを手にすると、 
「こうしてくれるわ!」 
と、ひしゃくの頭で、海ぼうずをなぐりつけました。 
 とたんに海ぼうずは、海のなかへもぐってしまいました。 
と、おもうまに、ふたつになって顔をだしたのです。 
 ビックリしてまたなぐると、こんどは四つになりました。 
「な、なんてやつらだ」 
 船頭がなぐればなぐるほど、海ぼうずは数をばいにしていきます。 
 そうして、うすきみ悪いわらい声をだしながら、きゅうに小山のように大きくなったり、みるみるしぼんだりしながら、船のまわりにとりついてきます。 
「こりゃ、どうもならん」 
 船頭はひしゃくをなげすてると、力まかせにろをこぎだしました。 
 ところが、海ぼうずたちがじゃまをして、船は前にすすみません。 
 それどころか、右へ左へと、船をゆさぶるのです。 
 船頭がきもをつぶして、 
「た、たすけてくれ!」 
と、さけぶと、海ぼうずたちのすがたが、フッと、きえてしまいました。 
「・・・ああ、たすかったか」 
 ホッと息をついてあたりをみまわすと、また、海がザワザワとさわぎはじめ、こんどは、さっきなげすてたひしゃくと同じものが何十本もでてきて、船のなかへ、ザブンザブンと、水をくみ入れはじめたのです。 
「な、なにするか!」 
 けんめいに水をかきだしますが、間に合いません。 
 海ぼうずたちは、つぎつぎに顔をだして、 
「はよう、しずんでしまえ。しずんでしまえ」 
と、いいながら、あとからあとから、水をくみ入れました。 
「やめてくれえ。たすけてくれえ」 
と、船頭がなきさけびますが、水はドンドンあふれて、ついに船はしずんでしまいました。 
 海へなげだされた船頭は、死にものぐるいでおよぎはじめましたが、すぐに足をつかまれ、くらい海の底へ引きずり込まれてしまったのです。 
      おしまい 
          
         
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