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        世界のとんち話 第15話 
         
          
         
わるがしこいクモ 
ナイジェリアの昔話 → ナイジェリアの国情報 
       むかしむかし、ひでりがつづいて、食べ物がなんにもとれない年がありました。 
   たくさんの子どもをかかえたクモがいましたが、たべるものがなんにもないので、みんな、やせていくばかりです。 
   ある晴れた日に、クモはゾウの王さまのところへでかけていきました。 
  「王さま、いつまでもおさかえになりますように。わたくしは、水のカバ王のおつかいでまいりました。あちらには、さかなはすてるほどございますが、ケーキをやくムギがございません。ほんのすこしばかり、ムギをゆずっていただけませんでしょうか。さいしょのとりいれのあとで、カバ王の一番りっぱなウマをお礼にさしあげたいとぞんじます。この話は、ゾウ王さまのお耳にだけいれるようにと、カバ王が申しておりました。ですから、どうぞだれにもおっしゃらないでくださいませ」 
   ゾウ王はこたえました。 
  「よし、カバ王のたのみはひきうけた。だが、なぜひみつにしなければならないのか、わからんのう」 
   ゾウ王はさっそく、家来のゾウたちに、百カゴぶんのムギを川へはこばせました。 
   クモは先にたって、道案内をしました。 
   さいごのゾウがカゴをはこんでしまうと、クモは、 
  「みなさん、もうあとはわたしがひきうけました。どうか帰って休んでください」 
  と、いって、ゾウたちを帰しました。 
   ゾウたちがいってしまうと、クモは大いそぎで家ヘ帰って、妻や子どもたちをよび集め、ムギをひとつぶのこらず自分の家へはこんでしまいました。 
   あくる日、クモは川の中にある、カバ王のご殿へいきました。 
  「王さま、いつまでもおさかえになりますように。わたくしは陸のゾウ王のおつかいでまいりました。ゾウ王のところには、ケーキをやくムギはいくらでもございますが、スープにいれるさかなが一匹もありません。そこでおねがいでございますが、さかなを百カゴいただけませんでしょうか。さかながふえて、たくさんとれるようになりましたら、一番りっぱなウマをお礼にさしあげると、ゾウ王は申しております」 
   カバ王はうなずきました。 
  「よろしい。ゾウ王ののぞみどおりにしてあげよう。さっそく、みなの者にそうだんして」 
   クモは、あわてていいました。 
  「王さま。ゾウ王からカバ王さまのお耳にだけいれるようにと、かたくいいつけられてまいりました。どうぞ、ひみつにしてくださいませ」 
   カバ王はしょうちしました。 
   そしてさっそく、家来たちに百カゴのさかなを川岸ヘはこばせました。 
  「みなさん、あとはわたしがひきうけました。どうか帰って休んでください」 
   こういってクモは、カバ王の家来たちを帰しました。 
   そして家へとんで帰ると、妻や子どもたちをよび集め、百カゴのさかなを自分の家へはこんでしまいました。 
   これで、食べ物の心配はなくなりました。 
   クモはどこにもいかないで、一日じゅう、妻や子どもたちと、せっせとつなをつくりはじめました。 
   長い長いつなが、できあがりました。 
   そして何百万もの貝がらを、そのなわにとおしました。 
   さて、とりいれのときがくると、ゾウ王はクモをよびました。 
  「カバ王がウマをくれるというやくそくを、わすれてはいまいな」 
  「どうかご安心ください。ちょうどウマをとりにいこうと思っていたところでございます。三日でもどってまいります」 
   クモはゾウ王のご殿から帰ると、なわをもって森へでかけました。 
   クモは、まいたつなをほどきながら歩いていきました。 
   ちょうど、半分ほどといたところで、のこりのつなをおいて、ゾウ王のところへひきかえしました。 
  「王さま」 
   クモは、つなのさきをゾウ王にわたしていいました。 
  「あしたの夜あけに、カバ王はウマを水からひきだします。このつなの片方のはしにウマをしばります。あすの朝まで、木のみきにつなをまきつけておいてください。木がゆれはじめたら、カバ王のウマがしばられてあばれだしたしるしです。それをごらんになったら、一番力もちの家来たちに、つなをひっぱらせてください。ウマがひきずりよせられるまで、けっしてやめてはいけません」 
   ゾウ王はクモのいうとおりに、つなを一番ふとくてガッシリした木のみきにまきつけました。 
   その間に、クモはカバ王のご殿ヘかけつけました。 
  「ゾウ王が、おやくそくのウマをさしあげるようにと申しましたが、わたくし一人では、とてもつれてこられません。そこでウマにつなをつけて、つなをひっぱりよせていただくことにしました。つなの先を川岸の木にしばりつけておきますから、あすの朝、一番力もちの家来たちにひっぱらせてくださいませ。ウマが岸にくるまで、おやめになってはいけません」 
   あくる朝はやく、カバたちは川岸にでてみました。 
   川岸の大きな木のみきに、つながまきつけてあります。 
   カバたちはつなをつかんで、自分のほうヘひっぱりはじめました。 
   ゾウたちも、つなをまきつけた木がゆれはじめると、ありったけの力をだして、片ほうのはしをひっぱりはじめました。 
   カバがむちゅうでひっぱれば、ゾウもすごい力でひっぱります。 
   とうとう、日がくれました。 
   ゾウもカバも、つかれきってねむりました。 
   そして夜があけると、またもやいっせいにつなひきをはじめました。 
   けれどもこのつなひきは、いつまでたっても勝負がつきません。 
   日が高くのぼったころ、カバ王は家来にいいました。 
  「こんなにしてもひっぱれないとは、いったいどんなウマだ? 見てまいれ。カバがウマにかなわないなどという話は、いままで聞いたこともない」 
   ちょうどそのころ、ゾウ王も家来にいいつけていました。 
  「カバ王がくれるというウマは、いったいどんなウマだろう? いってしらべてまいれ。ゾウがウマにかなわないなどという話は、聞いたこともない」 
   カバ王とゾウ王の家来たちは、森のまんなかでバッタリ出あいました。 
   ゾウは、カバに聞きました。 
  「みなさん、おそろいでどこへいくのですか?」 
   カバは、こたえました。 
  「あなたがたの王さまから、われわれの王さまにおくられたウマがどんなウマか、見にいくところですよ。つなをつけて一日じゅうひっぱっても、まだひきずってこられないのですからね。ところでみなさんは、どこへいくんですか?」 
  「われわれも、あなたがたの王さまからのおくりものだという、ウマを見にいくところですよ」 
   すると、カバの家来たちはビックリしていいました。 
  「カバ王がゾウ王にウマをおくるなんて、そんな話はなにも聞いていませんよ。川岸からつなをたどってここまできたんですが、どこにもウマなんていませんでしたよ」 
   カバとゾウは、それぞれの王さまのところへひきかえしていきました。 
   カバ王はこれを聞くと、火のようにおこりました。 
  「わしがウマをおくるだと? とんでもない! 百カゴのさかなをおくったではないか。さては、あのクモめがだましたな!」 
   ゾウ王も家来の話を聞いておどろきました。 
  「ウマをもらうのはわしのほうだ。百カゴのムギを、こちらからおくったではないか。さては、クモめがだましたな!」 
   ゾウ王はカバ王を、たずねていきました。 
  「もう、おたがいにむだなつなひきはやめましょう。それより、あのけしからんクモを見つけて、こっぴどくこらしめてやりましょう」 
   そのころクモは、ジッと家にかくれて、ゾウ王からだましとったムギと、カバ王からだましとったさかなをたべて、のんきにくらしていました。 
   ところが、とうとうムギもさかなも、たべつくしてしまいました。 
   だからまた、食べ物をさがしに外へ出なければならなくなりました。 
   でも、ゾウやカバに出あいたくはありません。 
   クモがあたりを見まわしていると、道ばたに病気で死んだカモシカの皮がありました。 
   たちまち、うまい考えがうかびました。 
   クモはカモシカの皮をかぶって歩きだしました。 
   けれども、そのカモシカのひずめは地面をひきずるだけですし、頭はプラプラとゆれています。 
   まったく、見るもあわれなカモシカです。 
   すると、むこうからゾウ王がやってきました。 
   ゾウは、ヨボヨボのカモシカを見て声をかけました。 
  「カモシカよ。クモをさがしてくれないかね。わしとカバ王をだましたわるいやつだ」 
   クモは、カモシカの声をまねしてこたえました。 
  「クモをさがすんですって? しーっ、大きな声をださないでください。とんでもないめにあいますよ。わたしをごらんなさい。クモとけんかしたばっかりに、わかい元気なわたしがこのありさまです。クモが足をわたしのほうへむけたとたんに、からだがドンドンとしなびてしまったんですよ」 
  「ほんとうか!」 
   ゾウ王はおどろきました。 
  「ほんとうですとも。どんなものでも、クモに足をふりあげられたらさいご。骨までしなびてしまいますよ」 
   ゾウ王は、おそろしくなって、 
  「クモをさがすのはやめた。クモにあっても、わしのことはだまっていてくれ。たのむ」 
  と、あわててにげだしました。 
   クモはいそいでカモシカの皮をぬぎすてると、先まわりをしてゾウをまちました。 
   そして、すました顔で、 
  「もしもし、わたしをさがしておいでのようですが」 
  と、いいながら、足をふりあげるまねをしました。 
   ゾウはガタガタとふるえながらさけびました。 
  「い、いや、ちがう、ちがう。あっちヘいけ。いってくれ、はやく」 
   クモは足をふりあげて、思いっきりおどすと、ゆうゆうとひきかえしました。 
   そしてまたカモシカの皮をかぶって、こんどは川岸にいきました。 
   ちょうどそのとき、カバ王は川岸をさんぽしていました。 
   カバ王はカモシカを見て聞きました。 
  「カモシカよ。クモを見なかったかね? わしはクモをこらしめてやりたいのだ」 
   クモは、カモシカの声をまねしていいました。 
  「おそろしいものをおさがしですね。クモのおかげで、わたしはこんなあわれなすがたになったんですよ。ついさっきまで、元気に走りまわっていたのに、クモに足をふりあげられたとたん、みるみるやせて、しなびてしまいました。あなたも気をつけたほうがいいですよ」 
   カバ王はふるえあがって、 
  「たのむ、わしがさがしていたなどと、クモにいわないでくれ」 
  と、いうなり、水のなかへもぐってしまいました。 
   クモはいそいで皮をぬぎすてて、カバのあとを追いかけました。 
  「カバはどこだ? 出てこい! クモはここにいるぞ!」 
   クモは水にむかって、大きな声でどなりました。 
   カバ王はビックリして、深く深くもぐってしまいました。 
   そしていちばん深いところまできて、カバはやっと安心しました。 
  「やれ、やれ。命びろいをした」 
   ほんとうに命びろいをしたのは、クモのほうですのにね。 
      おしまい 
         
         
        
       
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