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10月5日の日本の昔話
  
  
  
  舟の渡し賃
 むかしむかし、きっちょむさん(→詳細)と言う、とてもゆかいな人がいました。
   あるとき、きっちょむさんが庄屋(しょうや→詳細)さんによばれました。
  「すまない、きっちょむさん。渡し舟のせんどうが病気でたおれてしまったんだ。今日だけでいいから、代わりに渡し舟のせんどうになってはくれまいか」
  「はい、いいですよ」
  と、いうわけで、きっちょむさんは、今日一日、村の渡し舟のせんどうです。
  「ひまじゃな。だれか、客(きゃく)がこないかなあ」
   川べりでタバコをいっぷくしていると、旅の侍(さむらい)がやってきました。
  「これ、せんどう。渡し賃はいくらだ?」
  「はい。かたみち、八文(二百四十円ほど)のきまりになってます」
   すると、旅の侍が、
  「八文とはたかい。六文にいたせ!」
   いばって命令(めいれい)しました。
   きっちょむさんは、
  (このケチざむらいめ)
  と、思いましたが、けんかをしても、負けてしまいます。
  「さあ、舟を出しますよ」
   きっちょむさんは、侍をのせてこぎだしました。
   ところが、あと少しで向こう岸につくというところで、きっちょむさんは舟をとめました。
  「ここまでが六文です。あと二文だせば、岸までつけますが、どういたしましょう?」
  「なんだと。ここでおりて、あとは泳いでゆけというのか!」
  「いいえ、あと二文だせば、向こう岸までお送りします」
  「ええい、こうなれば意地比べだ。向こう岸までやれないのなら、もとの岸にもどせ!」
  「へい、わかりました」
   きっちょむさんは、すなおに舟をもどすと、さむらいの前に手を出しました。
  「六文のところを、行って帰ってきましたので、合計十二文ちょうだいいたします」
  「・・・くそーっ! わしの負けだ!」
   さむらいは十二文を払うと、どこかへ行ってしまいました。
おしまい