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3月29日の世界の昔話
  
  
  
  ネズミとゾウ
  トルコの昔話 → 国情報
 むかしむかし、あるところに、一ぴきのネズミがいました。
 そのネズミは、カガミを持っていました。
 それもふつうのカガミではなくて、魔法のカガミでした。
 そのカガミをのぞくと、だれでも自分が大きくえらく見えるのです。
 毎日、そのカガミをのぞいているうちに、ネズミは自分ほど大きくてえらいものは、どこをさがしてもいないような気がしてきました。
 そして、なかまのネズミたちをバカにして、話もしなくなりました。
 それを見て、世の中のことをよく知っている、年とったおばあさんのネズミがいいました。
  「ぼうや。このごろおまえはたいそういばっているそうだが、気をおつけ。ゾウが知ったらとんでもないことになるよ」
  「そのゾウってやつは、なんなのさ?」
  「ゾウというのは、世界でいちばん大きな生きものでね。どんなにつよいものでもかなわないんだよ」
  「うそだ! おれさまよりつよいものがいてたまるか」
 こうさけぶと、ネズミはゾウをさがしにでかけました。
 野原でネズミは、みどりのトカゲにであいました。
  「おい。ゾウっていうのは、おまえかい?」
  「いいえ。わたしはトカゲよ」
  「そうか。ゾウでなくてよかったな。ゾウだったらふみつぶしてやるところだった」
 小さなネズミのいばりかたがあんまりおかしかったので、トカゲは思わずふきだしました。
 ネズミはおこって、足をふみならしました。
 するとちょうどそのとき、ズシンズシンと地ひびきがしました。
 みどりのトカゲはおどろいて、石のかげにかくれました。
 ネズミが足をふみならしたために、おそろしい地ひびきがおこったのだと思ったのです。
  「ぼくは、なんて、えらいんだろう」
 ネズミはとくいになって、また先ヘいきました。
 しばらくいくと、カブトムシにであいました。
  「おい。ゾウというのはおまえかい?」
  「とんでもない。ぼくはカブトムシさ」
  「ゾウでなくてよかったな。ゾウだったらふみつぶしてやるところだった」
 それを聞いて、カブトムシはクスッと笑いました。
 ネズミはおこって、足をふみならしました。
 けれども地面は、ピクリともしません。
 ネズミはもう一回、やってみました。
 やっぱり、なんのひびきもおこりませんでした。
  (きっと、地面がしめっているせいだな)
  と、思いながら、ネズミは先ヘいきました。
 すこし先で、ネズミはふしぎな生きものにあいました。
 その生きものは、木のそばにジッとすわっていました。
  (こいつこそ、ゾウらしいぞ。きっとこのおれさまを見て、こわがっているんだな)
  と、ネズミは思って、いばって聞きました。
  「おい。おまえはゾウか?」
 それを聞いた生きものは、ニヤリとわらってこたえました。
  「ちがうよ。わたしは世界でいちばんえらいもののなかよしだ。わたしはイヌだよ」
  「世界でいちばんえらいものだと。それはなんだ?」
  「人間さ」
  「へえ。とにかくゾウでなくてしあわせだったぞ。ゾウだったら、たちまちふみつぶしてやるところだ。世界でいちばんつよいのは、このおれさまなんだからな」
 イヌはネズミをからかってやりたくなりました。
  「たしかにそうかもしれないね、ネズミくん。人間だって、きみたちにたべさせるために、コメやムギをつくっているんだもの」
  「まあな」
 ネズミは先をいそいで、森のおくヘやってきました。
 そこでネズミは、山のように大きなものにぶつかりました。
 足は木のみきのようにふとくて、おまけに、からだの前のほうにも、ながいしっぽがぶらさがっています。
  「おまえは、ゾウかい?」
 いばりんぼうのネズミは、力いっぱい声をはりあげました。
 ゾウはあたりを見まわしましたが、ネズミがあんまり小さいので目にはいりません。
 ネズミは、大きな石によじのぼりました。
 ゾウはやっと気がついて、こたえました。
  「そうだ。わしはゾウだよ」
  「おまえは、けしからんやつだ。おれさまをおどかすとは」
 ネズミはふんぞりかえって、さけびました。
 けれどもゾウはおこりもせず、そばの水たまりに鼻をつっこんで、うぬぼれネズミに、プーッと水をふきかけました。
  「ワッー!」
 ネズミはひとたまりもなくふきとばされて、もうすこしでおぼれそうになりました。
 ネズミはやっとのことで、家に帰りつきました。
 ネズミはこんどの旅で、世の中には自分よりもずっとずっとつよいものがいることを思い知りました。
 それからというものネズミは、二度とほかのものをバカにしたり、いばったりしなくなりました。
   ついでに、魔法のカガミをのぞくこともやめたということです。
おしまい