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1月10日の世界の昔話
  
  
  
  ゆうれいをせおう娘
  スウェーデンの昔話 → スウェーデンの国情報
 むかしむかし、ある村はずれに古い教会がありました。
 この教会には、いつからか、夜になるとゆうれいがあらわれるようになったのです。
 そのゆうれいは、カラカラにひからびたミイラ(→詳細)で、いつもお堂にすわっていました。
  「きっと、わけがあるにちがいない」
 村人たちはそう思いましたが、こわいので、夜は教会に近づきませんでした。
 ある晩、村の農家に若者たちが集まって、ワイワイさわいでいるうちに、
  「どうだい、あの教会のゆうれいを、ここにつれてくるものはいないか? もしつれてきたら、一ばんよい服をつくってやるぞ」
  と、仕立て屋がいいました。
 ゆうれいと聞いて、若者たちはだまってしまいました。
 その時、部屋のすみから、
  「わたしがいくわ!」
  と、いう声がしました。
 それは、この家のお手つだいの娘でした。
 この娘は、村でも評判(ひょうばん)の、元気で勇気がある娘です。
  「ああ、いいだろう。できるものなら、やってみな」
 仕立て屋は、いくら娘に勇気があっても、教会までいったらきっと、こわくてないて帰ってくるにちがいないと思っていました。
 ところがどうでしょう。
 娘は本当に、一人で教会にいって、ゆうれいをおぶって帰ってきたではありませんか。
  「ひええっ!」
 若者たちは、青くなりました。
 イスにすわらされたゆうれいは、暗い大きな目で、ジッと若者たちを見つめるのです。
  「は、はやく、はやくつれていってくれ! 服をもう一着つくってあげるから!」
 仕立て屋は、かすれた声でいいました。
 娘はしかたなしに、またゆうれいをおぶって教会にもどりました。
 ところがこまったことに、教会についてもゆうれいは、娘の背中からおりようとしないのです。
  「さあ、おりてちょうだい」
  と、いっても、首にしがみついたまま、はなれようとしないのです。
  「おねがい、ねえ、おりてよ」
 娘が何度もいうと、ゆうれいは、やっと口をひらきました。
  「それなら、いうことをきいてくれるかい?」
  「ええ、きっと」
  「じゃあ、いますぐ川に行って『ペールの娘、アンナさん。トーレ・イエッテをゆるすかい?』と、大声で三回いっておくれ。その川には、わしが生きているときに殺した、かわいそうな娘がしずんでいるんだ」
  「わかったわ、そういえばいいのね」
 娘が返事をすると、ゆうれいは娘の肩から手をはなしました。
 娘はすぐに、暗い道を歩いて川にいき、大声でいいました。
  「ぺールの娘、アンナさん。トーレ・イエッテをゆるすかい?」
 ゆうれいにいわれたとおり三回いうと、川から女の人の声がしました。
  「神さまが、おゆるしになるのなら、わたしもゆるします」
 娘は、このことばを聞くと、急いで教会にもどりました。
  「何かいってたかい?」
 ゆうれいは、まちかねたように聞きました。
  「ええ。『神さまがおゆるしになるのなら、わたしもゆるします』って」
  「本当に、そういったんだね。わしはもう、神さまのそばで十分につみのつぐないをした。これであの世にいけるぞ」
 ゆうれいは、ホッとしたようにいいました。
  「ありがとう。では今夜はもうお帰り。そして朝がくるまえに、もう一度ここにきておくれ」
 朝日がのぼるまえに、娘が教会にいくと、ゆうれいはもういませんでした。
 そのかわり、山のような銀貨がそこにおいてありました。
 娘はその銀貨を手にして、大喜びです。
   そして、それっきりゆうれいは、あらわれなくなったということです。
おしまい