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第 50話

弓矢名人の化け物退治

弓矢名人の化け物退治

 むかしむかし、弓矢の大好きな兄弟がいました。
 父親に畑仕事を言いつけられた兄弟は、父親が昼飯を届けに行くと汗まみれになって働いているのですが、父親の姿が見えなくなるとすぐに畑仕事を放り出して弓矢の練習ばかりをしていました。
 この事を隣に住むおじいさんから聞いた父親は怒って、
「このなまけ者め! 出て行け!」
と、兄弟を家から追い出したのです。

 家を追い出された兄弟は大事な弓矢を持って旅に出ると、家が七十軒ほどの村にたどり着きました。
 兄弟は今夜この村に泊めてもらおうと思いましたが、どの家にも人の気配がありません。
「おかしいな。これだけ家があって誰もいないとは」
「おや、あの家だけ煙が出ているぞ」
 兄弟がその家に行ってみると中から一人の美しい娘が出てきて、悲しそうにポロポロと涙をこぼしました。
「村人はみな、鬼に食べられてしまいました。私も明日には、鬼に食べられる運命です」
 兄弟が娘に鬼の正体を聞くと、近くの山にある大きなナシの木が、夜になると鬼に化けて村人を襲うのだと教えてくれました。
 そこで兄弟は娘に道案内をしてもらい、得意の弓矢で鬼になったナシの木を退治したのです。
 そしてその地に残った兄は娘と夫婦になり、仲良く暮すことにしました。

 さて、一人になった弟は旅を続け、今度は八十軒ばかりの村にたどり着き来ました。
 この村も人の気配はなく、ただ一人生き残った娘から事情を聞いてみると、
「村人はみな化け物に食べられて、今夜は自分の番なのです」
と、言うのです。
「分かりました。ここに来たのも何かの縁。わたしがその化け物を退治しましょう。それで、その化け物の正体は?」
 弟が聞くと、娘は首を横に振りました。
「分かりません。ただ、目を光らせながら空から飛んで来て、屋根から家の中に入ってくるそうです」
 そこで弟は娘に木綿の糸をつむがせて矢に結ぶと、空から風に乗って現われた化け物の不気味に光る左目を打ち抜きました。
「ウギャーーー!」
 化け物は大声で叫ぶと、そのままどこかへ消えてしまいました。

 翌朝、弟と娘が矢に結びつけた木綿糸をたどっていくと、近くの炭焼き小屋で見た事もない大グモが死んでしました。
 大グモの左目には、弟の矢が突き刺さっています。
「この大グモが村を襲った化け物であったか」

 その後、弟は娘と夫婦になり、兄夫婦同様、仲よく幸せに暮らしたということです。

おしまい

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