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福娘童話集 > きょうの百物語 > その他の百物語 >妖怪の山 
      第 28話 
         
           
         
妖怪の山 
        むかしむかし、幽霊や妖怪を信じない気の強い侍がいました。 
         
 ある日、友だちの岩八(いわはち)がやって来て言いました。  
「お前は幽霊や妖怪を信じないが、しかし妖怪は本当にいるぞ。おれは妖怪の住む山を知っているから、なんなら案内してやるぞ」  
「うむ、お前がそう言うのなら、試しに出かけてみるか」  
 侍と岩八は、さっそく妖怪の住む山へと向かいました。 
 
 妖怪の住む山に入ったとたん、どこからか怪しげなおばあさんがつえをついて現れました。  
「お前さんたち、何しにきたんじゃ。この山には恐ろしい妖怪が住んでおるから、はよう、ふもとに帰りなされ」  
 侍は、おばあさんにぺこりと頭を下げると言いました。  
「ご忠告をありがとうございます。 
 ですが、そうはいきません。 
 何しろわしらは、その妖怪に会いに来たのですから。 
 それよりも、妖怪の住みかを知っているなら教えてもらいたい」  
「・・・妖怪の住みかは、ここをまっすぐ行くだけだ。しかし、本当に行くのか? 殺されてしまうぞ」  
 おばあさんはそう言って、すーっと煙の様に消えてしまいました。 
 それを見て、岩八はびっくりです。 
「き、消えた。消えたぞ! 今のばあさまも妖怪だ! ・・・おい、どうする? ひきかえそうか?」  
「おいおい、まさか、もうおじけづいたのか? もっとすごい妖怪を見るまで、わしは絶対に帰らんぞ。怖いのなら、お前一人で帰るがいい」  
 侍はそう言って、すたすたと歩き出しました。  
「ま、待ってくださいよ。こうなりゃ、乗りかかった船だ。どこまでもお供しますよ」  
 岩八もあわてて、侍についていきました。 
 
 二人がしばらく行くと、頭に角が一本生えた可愛い女の子が出てきて言いました。 
「あんたたち、妖怪に会いに来たんだろう? それなら、あたいらの親分がお待ちかねだよ」  
「ほう、妖怪の親分か。では、案内せい」  
「うん、ついてきて」  
 しばらく行くと、山奥なのにとても立派な屋敷がありました。 
 その屋敷の広間には、妖怪の親分が座っています。 
「ほう、妖怪の親分とは、天狗であったか」 
 妖怪の親分の天狗は手に羽扇(はねおうぎ)を持っていて、まわりに大勢の家来をしたがえています。 
 天狗はニヤリと笑いながら二人に言いました。 
「よく来たな、待ちかねておったぞ。 
 侍よ、お前は日頃から妖怪などいないとうそぶき、我らをあざけり笑っているそうだな。 
 今日はその妖怪を、存分に見せてやろう」  
「おお、望むところだ。いい土産話になる」  
 侍が笑っていると、さっきの女の子がいきなり三メートルもある大女に化けました。 
 次に家来の一人が進み出て、のっぺらぼうの顔を見せました。 
 のっぺらぼうの次は、ろくろっ首、お歯黒べったり、からかさお化けなど、家来たちが次々と妖怪の姿を見せます。  
 あまりの怖さに岩八はガタガタと震えていますが、侍は平気な顔で妖怪たちを見ています。 
「どうだ。これでもまだ妖怪を信じぬか?」  
 天狗の言葉に、侍が言いました。  
「いや、妖怪がいる事は信じよう。だが」 
「だが?」 
「妖怪といっても、姿形が人と少し違うだけの事。わしには妖怪よりも、山犬やオオカミの方が恐ろしいわ。わははははは」 
 
大声で笑う侍に、天狗は腹を立てました。 
「妖怪など、怖くはないか。・・・ならば、わしの正体を教えてやろう」 
「お主の正体は、天狗だろう?」 
「いかにも。 
 だが、ただの天狗ではない。 
 わしは、世の悪者をいましめる天狗だ。 
 お前は悪者ではないが、妖怪を恐れないだけでなく、妖怪を馬鹿にしておる。 
 わしはそれをいましめる為、わが家来を岩八に化けさせて、ここにまねき寄せたのだ」  
「えっ? 岩八が?」  
 おどろいた侍が岩八に目をやると、岩八の口がするどいくちばしに変わり、全身がまっ黒なカラス天狗になっていました。  
「驚くのはまだ早いぞ。これを見るがいい」  
 親分の天狗がそう言うと、岩八に化けていたカラス天狗が押し入れの戸をさっと開けました。  
 するとそこには何百ともわからないほどの人間の死体が、山のように積み上げられていました。  
「これはみな、わしがこらしめた悪い事をした人間たちだ。とくに悪い奴は、からだを八つざきにしてある。どうじゃ、よく見ておけ」  
「・・・・・・」  
 さすがの侍も、これには言葉が出ません。  
 侍はあまりの怖さに、いつの間にか涙を流していました。 
 その涙を見て、親分の天狗が満足そうに言いました。 
「よし。もう、これくらいにしてやろう」  
 そして侍のえり首をつかむと、ブン! と空高く放り投げました。 
 
 ヒューーー、ドスーン!  
 
 空高く舞い上がった侍が落ちたのは、なんと自分の家の庭先でした。  
 大きな音にびっくりした屋敷の人たちが出てみると、首を地面にめり込ませた主人が手足をばたつかせて助けをもとめています。 
 
 屋敷の人たちの介抱で我にかえった侍は、それからというもの幽霊や妖怪を恐れ、神や仏を大切にする様になったそうです。  
      おしまい 
           
             
         
          
          
       
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