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第 20話

幽霊の金袋

幽霊の金袋

 むかしむかし、あるところに、とても働き者の若者がいました。
 若者は朝早くから夜遅くまで1日中働きますが、暮らしは少しも楽になりません。

 ある晩の事、仕事を終えた若者が村はずれの墓場の前を通りかかると、向こうから若い娘がやってきました。
(若い娘が、なぜこんな時間に?)
 不思議に思いながらも近づいていくと、何とそれは、最近死んだばかりの同じ村の娘ではありませんか。
「お、お前さんは?!」
 若者はびっくりして、それ以上は声が出ません。
(ゆ、幽霊か? 人は死ぬと幽霊になって恨みをはらすというが、おれはあの娘に恨まれるような事していないぞ)
 声の出せない若者がブルブル震えていると、娘は若者に小さな袋を差し出して、やさしい声で言いました。
「そんなに怖がらなくても大丈夫です。これを、あなたにあげます。どうぞ」
 若者は震える手で、その袋を受け取りました。
 その袋は大きさの割には、ずっしりとした重さです。
 袋を渡すときに一瞬手が触れた娘は、その手を押さえながら恥ずかしそうに言いました。
「わたしは、お前さんが好きでした。出来る事なら、それをわたしの代わりに使って下さい」
 娘はそう言うと、すうっと煙のように消えました。
「き、消えた・・」
 ようやく声が出せるようになった若者は、娘のくれた袋をつかんだまま夢中で駆け出して自分の家に飛び込みました。
「さっきの娘は、確かに幽霊だった。そして幽霊が、おれの事を・・・」
 相手が幽霊でも、若い娘から好きだと言われればうれしい気がします。
「しかし、この袋は何だろうか? ・・・まさか、開けると死んでしまうのではないだろうな。・・・でも、開けてみないことには」
 若者は、恐る恐る袋を開けました。
 すると中には銀貨や銅貨が、いっぱいつまっていたのです。
 あの娘も若者と同じように貧しかったはずなのに、どうしてこんな大金を持っていたのか不思議です。
「幽霊の願いでもあるし、ここはありがたく使わせてもらうか」

 次の日、若者は町へ行って、前から欲しかった農具を買って来ました。
 そしてその農具を使って、今まで以上に働いたのです。
「新しい農具を使うと、こんなにも仕事がはかどるのか。ありがたい。・・・そうだ。娘さんの墓に、供え物でも買ってやろう」
 若者が残りのお金を調べようと袋を開けると、不思議な事に銀貨や銅貨が前よりも増えていたのです。
「そんなバカな。農具を買うのに、ずいぶんと使ったはずなのに」
 若者は首をひねりながらも供え物を買って、娘の小さな墓に供えました。

 次の日、若者が袋を調べてみると、袋はまた、お金でいっぱいになっていたのです。
「何て不思議な袋なんだ」
 若者はこの袋のおかげで、たちまち村一番のお金持ちになりました。
 若者は娘の墓を立派な物に建て替えると、袋のお金を使っていつまでも幸せに暮らしました。

 この不思議な袋は『幽霊の金袋』と言って、一文でも袋にお金を残しておくと、一晩でお金が袋いっぱいになるそうです。

おしまい

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