福娘童話集 > きょうの新作昔話 >あたしの尻尾

2017年 1月23日の新作昔話



あたしの尻尾
アメリカの昔話 → アメリカの情報

　むかしむかし、ある大きな森に、男が三匹の犬と暮していました。
　男は暖炉のついた丸太小屋で寝て、三匹の犬は床下で寝ています。

　ある晩、男が夕食を作ろうと包丁を持っていると、窓の外に太くて長い尻尾が見えました。
　それが何の動物の尻尾かは、ここからでは動物の体が見えないので分かりません。
(あの尻尾は何だろうか？　・・・まあいい。今日の夕食はあの尻尾にしよう)
　男は窓からそーっと手を伸ばすと、左手で尻尾をつかんで右手の包丁で尻尾を切りました。
「フギャーー！」
　尻尾を切られた動物は鳴き声をあげると、森の中に逃げていきました。
　男は切った尻尾を鍋に入れると、ぐつぐつと煮て食べました。
　何の尻尾かは分かりませんが、とてもおいしい尻尾でした。

　その夜中、男が寝ていると丸太の壁をガリガリとひっかく様な音がしました。
　男がその音に目を覚ますと、壁の向こうから奇妙な声が聞こえてきました。
「尻尾、尻尾、あたしの尻尾を返しておくれ。お礼をするから、返しておくれ」
　男は、壁の外の声に言いました。
「返してやるから、先にお礼をくれ」
　すると窓の外から、金貨が１枚投げ込まれました。
「尻尾、尻尾、お礼をしたから返しておくれ」
　壁の向こうの言葉に、男は犬たちをけしかけました。
「おれの犬、外の尻尾がないやつを追い払え！」
　ワンワンワン！
　三匹の犬たちは床下から飛び出すと、変な生き物を森の中に追い立てました。

　それからしばらくすると、また丸太の壁をガリガリとひっかく様な音がします。
「尻尾、尻尾、あたしの尻尾を返しておくれ。お礼をするから、返しておくれ」
　男は、壁の外の声に言いました。
「返してやるから、さっきよりたくさんのお礼をくれ」
　すると窓の外から、３枚の金貨が投げ込まれました。
「尻尾、尻尾、お礼をしたから返しておくれ」
　壁の向こうの言葉に、男は再び犬たちをけしかけました。
「おれの犬、外の尻尾がないやつを追い払え！」
　ワンワン！
　犬たちは床下から飛び出すと、変な生き物を森の中に追い立てました。

　それからしばらくすると、また丸太の壁をガリガリとひっかく様な音がします。
「尻尾、尻尾、あたしの尻尾を返しておくれ。お礼をするから、返しておくれ」
　男は、壁の外の声に言いました。
「返してやるから、さっきよりたくさんのお礼をくれ」
　すると窓の外から、５枚の金貨が投げ込まれました。
「尻尾、尻尾、お礼をしたから返しておくれ」
　壁の向こうの言葉に、男は再び犬たちをけしかけました。
「おれの犬、外の尻尾がないやつを追い払え！」
　ワン！
　犬は床下から飛び出すと、変な生き物を森の中に追い立てました。

　それからしばらくすると、また丸太の壁をガリガリとひっかく様な音がします。
「尻尾、尻尾、あたしの尻尾を返しておくれ。お礼をするから、返しておくれ」
　男は、壁の外の声に言いました。
「返してやるから、さっきよりたくさんのお礼をくれ」
　すると窓の外から、８枚の金貨が投げ込まれました。
「尻尾、尻尾、お礼をしたから返しておくれ」
　壁の向こうの言葉に、男は再び犬をけしかけました。
「おれの犬、外の尻尾がないやつを追い払え！」
　しかし、犬が飛び出す気配がありません。
「どうしたおれの犬！　おれの犬はどこに行った！」
　すると、壁の向こうの声が言いました。
「犬は、あたしが一匹ずつ殺したよ。あたしを追い立てる犬は、もういないよ」
　その声に、男は震えました。
　あの三匹の犬は、クマも逃げ出すほどの強い犬たちでした。
　その犬を殺すような生き物に、男が勝てるはずがありません。
「尻尾、尻尾、あたしの尻尾を返しておくれ。お礼をしたから返しておくれ」
　壁の向こうの声に、男は泣きそうな声で言いました。
「すまない、尻尾は食べてしまったから、返す事が出来ないんだ。もらった金貨は返すから、どうか見逃してくれ」
　男がそう言ったとたん、窓を突き破って銀色に光る大きな目の動物が入ってきました。
　頭から生えた２つのとがった耳はネコの様ですが、体の大きさは人間よりも大きな黒い動物です。
　黒い動物はキバが並んだ大きな口を開くと、恐ろしい声で言いました。
「嘘つきめ！」

　その夜から、あの男の姿を見た者はいません。
　そしてこの森では月の明るい風の強い晩になると、
「尻尾、尻尾」
と、いう声が聞こえてくるそうです。

おしまい