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2013年 9月23日の新作昔話

鬼と長芋

鬼と長芋
群馬県の民話群馬県の情報

 昔々、上野の国(現在の群馬県)の白根山と四阿山(あずまやさん)に、鬼が沢山住んでいました。
 鬼達は旅人から荷物を奪ったり、里に降りてきては娘や子供などをさらって食べたりするなどの悪さばかりするので、山のふもとの村人達は、いつ鬼に食べられるかと、びくびくしながら暮らしていました。
 そんな村人達に悪さをする鬼の中に、一人の若い娘の鬼がいました。
 娘鬼は可愛いけれど超意気地無しの性格で、しかも、まだ一度も人間を食べた事が無く、好物は人間と同じ食べ物と言う有様。
 そのため仲間の鬼達に「なんで人間を食べないんだよ!」と文句を言われたり、「鬼ならもっと鬼らしくしろ!」と、鬼の大将に怒られてばかりいました。

 ある日、鬼の大将が意気地無しの娘鬼に向かって
「おい、お前も人間を一人ぐらいは食べてみろ。」
と言いました。
 すると意気地無しの娘鬼は
「わかりましたぁ…。」
と情けない声で返事をすると、早速里に向かって下り始めました。

 意気地無しの娘鬼が
「人間を食べるのはいやだわぁ、とても怖いし。それよりも、もっと美味しいものを食べたいなぁ…。」
と思いながら山を下りていると、どこからともなく人の話し声が聞こえてきました。
 それは
「今日は五月五日の節句だ。仕事を早く切り上げて特別なご馳走をいただこう。」
「そうしよう。」
という内容でした。
 意気地無しの娘鬼はそれを聞くと
「節句のご馳走?! ラッキー! どんなものなのか、あたしも食べてみたいな。」
と大喜びしながら里へとやって来ました。
 そして
「節句のご馳走、節句のご馳走、人間よりも美味しいなぁ〜♪」
と歌いながら歩いていると、一軒の民家が目の前に現れました。
 意気地無しの娘鬼はその民家へと近づき窓からそっと覗いてみると、この家に住む女房が丁度食事の準備をしていました。
 女房は
「今日は節句の日だから、長芋をいっぱいすってトロロ汁のご馳走を作りましょう。」
と言いながら、ゴーリゴリ、ゴーリゴリと、長芋をすり鉢で丁寧にすっています。
 ところが、その様子を見ていた意気地無しの娘鬼の目には、女房がすりおろしている長芋が“鬼の角”に見えてしまったのです。
 意気地無しの娘鬼は
「きゃっ! 節句のご馳走と言うのは、あたし達のトレードマークでもある“鬼の角”の事だったわ!! しかも、ゴーリゴリ、ゴーリゴリと、丁寧にすりおろしている!!!」
と、びっくりして、山へ帰ってしまいました。
 山へ戻ってくると、意気地無しの娘鬼は考えました。
 そして
「それにしてもあたしの角をすりおろしたら、一体どうなるのかしら。たぶん、美味しいと思うなぁ。」
と言いながら、自分の頭にたった一本だけ生えている角をトンカチで叩き折ると、すり鉢を取り出して、ガキガキ、ガキガキと、すってみました。
 ところが鬼の角は硬いため、どうやってもすりおろすことが出来ません。
「おかしいわぁ。あの女の人は簡単に角をすっていたのに、あたしのはいくら力を入れても少しも削れない…。」
 意気地無しの娘鬼がそうつぶやいていると、突然
「何をやっているんだい!頭がおかしいぞ!!!」
と怒鳴り声が聞こえてきました。
 振り向くと、鬼の大将と仲間の鬼達が怖い顔をして立っていました。
 意気地無しの娘鬼は
「ごめんなさい。」
と謝ると、里での話をすっかり話して聞かせました。
 それは
「里では毎年五月の節句になると、そのご馳走として、あたし達鬼から角を奪ってすりおろしているらしいのよ。里の人は簡単に角をすりおろしているけれど、あたし達鬼だとすりおろせないのよ。」
と言う内容でした。
 その話を聞いた鬼の大将と仲間の鬼達は
「そんな馬鹿げた話あるものか!」
と怒り出し、意気地無しの娘鬼をみんなで殴ろうとしました。
が、突然
「待っておくれみんな。」
と、悲しげな声がしました。
 みんなが振り返ると、一人の角の無いお爺さんの鬼が悲しそうな顔で立っていました。
 鬼の大将と仲間の鬼はその鬼に向かって
「この角無しの老いぼれ鬼め!何が言いたいんだ!!」
と怒鳴ると、角無しのお爺さん鬼は
「ワシはこの娘鬼の祖父じゃ。孫娘はワシの人肉嫌いの影響で、生まれたときから一度も人間を食べたことが無いのじゃ。どうか殴らないでおくれ。」
とみんなをなだめた後、
「里での話はワシも聞いている。みんなも実際に見に行って確かめた方がいいよ。」
と言い出したので、鬼達は意気地無しの娘鬼と角無しのお爺さん鬼を先頭に里へ降りて行き、先程の民家をみんなで覗いて見ることにしました。

 鬼達が、その民家の窓から覗いてみると、丁度、食事の最中でした。
 主人と女房が出来立てのトロロ汁を温かいご飯にかけてツルツル、ツルツルと、美味しそうに食べていました。
 主人が
「やっぱりトロロ汁は美味いなぁ。」
と言うと、女房が
「おかわりならいくらでもあるわよ。」
と言いながら、かごの中に詰め込まれた沢山の長芋を取り出して見せました。
 それを見ていた鬼の大将と仲間の鬼達はびっくり仰天!
「あんなに沢山鬼の角を集めてるぞ!」
「うかうかしてると俺達も角を取られてしまう!!」
「人を食べるどころか、我輩らが逆に食べられてしまう!!!」
「逃げろ〜〜〜〜っ!!!!」
と恐怖の余り、完全にビビってしまった鬼達は即座に遠くの方へ逃げ出してしまいました。
 後に残されたのは、角を失った意気地無しの娘鬼と角無しのお爺さん鬼の二人だけでした。
 意気地無しの娘鬼と角無しのお爺さん鬼は
「あたし達二人のせいでみんなが遠くの方へ逃げてしまうし、しかもあたし達、頭の角も無く、食べるのは人間と同じものばっかり。これからいったいどうしたらいいのかなぁ…。」
と嘆いていると、突然
「お二人さん、私と一緒に里に暮らしましょう。」
と優しい声が聞こえてきました。
 二人が振り返ると、一人のおばあさんが長芋を持って立っていました。
二人が
「あっ、鬼の角だ!」
と叫ぶと、おばあさんは
「これは長芋と言って、トロロ汁にすると美味しいのよ。」
と言って二人を自分の家に招きトロロ汁をご飯にかけてご馳走してあげました。
 意気地無しの娘鬼と角無しのお爺さん鬼は“鬼の角”の正体が長芋だとわかると
「こんなに美味しい物、みんなに食べさせてあげたかったなぁ。」
と一瞬思いましたが、
「やっぱりあたし達、角が無いから人間として暮らした方がいいね。」
と、二人は人間として、そしておばあさんの家族として生きる決心をしました。
 こうして元鬼の二人は長芋が大好物になると同時に里の人達とも仲良くなり、幸せに暮らすことになりました。

 この様な出来事があって以来、白根山と四阿山から鬼は居なくなり、ふもとの村の人々は安楽に暮らせるようになりました。
 後にこの話を伝え聞いた人々は、鬼除けのおまじないとして、毎年五月の節句の頃に長芋を食べるようになったと言うことです。

おしまい

この物語は、福娘童話集の読者 山本様からの投稿作品です。

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