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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > カメの恩返し

2008年 12月16日の新作昔話

カメの恩返し

カメの恩返し
滋賀県の民話滋賀県情報

 むかしむかし、近江の国(おうみのくに→滋賀県)に、一人の貧乏な男がすんでいました。
 お嫁さんがいたのですが、家が貧乏なのでお嫁さんも人にやとわれて、はたをおってやっとくらしをたてていました。
 お嫁さんは、一生懸命に働きました。
 そして仕事の合間のわずかの時間を利用して、自分の布をおっていました。
 しかし仕事の合間するので、なかなか布が仕上がりません。
 ながい間かかって、やっと一反(いったん→着物一人分の布)だけおりあげることができました。
 お嫁さんはその布を家に持って帰って、男に言いました。
「この布を魚と取り替えてきていただけませんか?」
「魚と?」
「はい、琵琶湖(びわこ)のほとりの矢橋(やばせ)にいけば、漁師が大勢いて、魚をとって売っているそうです。そこへいって、魚と取り替えてきてください。その魚をイネモミと取り替えて、来年から田んぼを作ろうではありませんか。そうすれば、きっと暮らしが良くなるでしょう」
「それは良い考えだ」
 さっそく男は布を持って、矢橋に出かけました。
 そして漁師に、あみをひいてもらいましたが、運の悪いことに魚は一匹もかかりません。
 ただ大きなカメが、一匹かかっただけです。
「ちえっ、一匹もとれねえ」
 漁師は腹立ちまぎれに、そのカメをたたき殺そうとしました。
 それを見た男は、カメが可哀想になって言いました。
「待っておくれ、そのカメをもらうよ。この布でそのカメを買うよ」
「えっ? このカメでいいのかい?」
 漁師は大喜びで布をもらって、カメを男にわたしました。
 男はカメを両手でかかえて、
「カメは万年の、命の長い生き物だと聞いている。命のあるものは、その命がなによりも大切だからね」
と、カメにいうと、そのまま琵琶湖にはなしてやりました。
 こうして男は、手ぶらで家にかえってきました。
「どうでした? 無事に魚を買うことは出来ましたか?」
 お嫁さんがたずねると、男は気まずそうにいいました。
「うん、その、・・・布はカメと取り替えて、カメの命を助けてやったよ」
「まあ、お前さんは」
 お嫁さんはそれだけ言うと、悲しそうにうつむいてしまいました。
 そしてそれから、いく日もたたないうちに、男は病気になって死んでしまいました。
 お嫁さんは泣きながら、男の亡きがらを近くの山崎(やまざき)というところに、ほうむることにしました。
 ところがそれから三日たって、そこへ一人の旅人が通りかかりました。
 そして、息を吹き返した男を見つけたのです。
 旅人は水をくんできて、男に飲ませてやりました。
 知らせを受けたお嫁さんは、すぐに山崎へ走っていき、道ばたに倒れている男を背中に背負って家につれてかえりました。
 お嫁さんの介抱で、男はしだいに元気をとりもどしました。
 そしてある日、こんな事を、お嫁さんに話して聞かせました。
「わたしが死んだとき、地獄の役人においたてられて、ひとつの役所の門に出た。門の前にはたくさんの人間たちが、しばられて転がっていた。
『わたしも、こんなふうにしばられるのか』
と、恐ろしさで震えていると、そこへ一人の小僧さんが出てきて、
『わしは、地蔵さまだ。お前は、わしのために恩をほどこしてくれたな。わしは命をもっている者に、めぐみをほどこしてやろうと思って、湖のほとりでカメになっていたことがある。そのときお前はわしを買い取って、命を助けてくれた。本当に、良い行いをしてくれた』
と、いってから、役人にむかって、
『この男を、すぐに助けてやれ』
と、いってくれたのだ。
 そこで地獄の役人どもは、わたしを助けてくれた。
 すると小僧の地蔵さまは、またおっしゃった。
『お前は、すぐに本国にかえって、この後も必ず良い行いをつむがよい。そうすれば、きっと幸せになれる』
 ちょうどその時、二十歳ぐらいのきれいな娘さんが、鬼にしばられてやってきたのだ。
 そこでわたしは、そっと娘にきいてみたんだ。
『あなたは、どこの人かね?』
 すると娘さんは、泣きながら答えた。
『わたしは、筑前の国(くちぜんのくに→福岡県)の者でございます。今日、急に父母と別れて、鬼におわれた者でございます』
 わたしはこれを聞くと、とても気の毒になって地蔵さまに申し上げた。
『わたしは、もうだいぶ年をとりました。生き返っても、残りの命はいくらもございません。それにあの娘は、まだ若くて、これから先が長いように思われます。どうかわたしの代わりに、あの娘を助けてやってください』
 すると、地蔵さまはおっしゃった。
『お前は、実にあわれみぶかい男だ。わが身に代えて、人を助けるなどということは、なかなか出来ることではない。お前のその立派な心に感心した。特別に、二人とも助けてやることにする』
 その娘さんは泣きながら、喜んで帰って行ったよ」
 お嫁さんは話を聞き終わると、すっかり男のやさしさに感心しました。
 それからしばらくたって、男は地獄であった娘さんをたずねてみたくなりました。
 そこで筑前の国にくだり、いろいろたずねてみますと、筑前の国の大領(たいりょう→長官)の娘だということがわかりました。
 男はその家にいって、娘のことをたずねると、
「はい、あの子は病気になって死にましたが、不思議なことに、二、三日して生きかえったのです」
と、いうのです。
 そこで、
「あの世であった男がたずねてきたから、ぜひあってほしい」
と、つたえてもらいました。
 すると娘はびっくりして、転がるようにして走り出てきました。
 たしかにあの時の美しい娘です。
 二人は互いに涙を流して、あの時の事を語り合いました。
 やがて男は近江の国へ帰ると、地蔵さまの言うように良い行いをつんで、お嫁さんと二人で幸せに暮らしました。

おしまい

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