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12月3日の世界の昔話
  
  
  
  シラミちゃんとノミちゃん
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 むかしむかし、シラミちゃんとノミちゃんが、いっしょにくらしていました。
 あるとき、二人はタマゴのからのなかにスープをつくりました。
 ところが、シラミちゃんがそのなかへおっこちて、やけどをしてしまったのです。
 それを見てノミちゃんはかなしくなり、ワーワーと泣きだしました。
 すると、部屋の小さな扉(とびら)がいいました。
  「ノミちゃん、どうしてワーワー泣くの?」
  「だって、シラミちゃんがやけどしたんですもの」
 すると扉(とびら)は、キイキイなりだしました。
 それをきいて、部屋のすみっこにいたホウキが、
  「扉さん、どうしてキイキイなるの?」
  と、いいました。
  「キイキイならずにいられるもんですか。シラミちゃんがやけどして、ノミちゃんが泣くの」
 するとホウキは、ものすごいいきおいで、そこらじゅうをはきはじめました。
 そこへ、小さな車がとおりかかって、
  「ホウキさん、どうしてそんなにはくの?」
  と、いいました。
  「はかずにいられるものか。シラミちゃんがやけどして、ノミちゃんが泣く、扉ちゃんがキイキイなるの」
 すると車は、
  「それじゃ、わたしもかけだそう」
  と、いって、すさまじいいきおいでかけだしました。
 車がこやしの山のそばを走りぬけますと、こやしが、
  「車さん、どうしてそんなにかけるの?」
  と、いいました。
  「かけずにいられるものかね。シラミちゃんがやけどして、ノミちゃんが泣く、扉ちゃんがキイキイなる、ホウキちゃんがはくの」
 するとこやしは、
  「それじゃ、おれもドンドンもえてやろう」
  と、いって、ほんとうに、明るいほのおをあげてもえはじめました。
 こやしのそばに、一本の小さな木がはえていましたが、その木が、
  「こやしさん、どうしてそんなにもえるの?」
  と、いいました。
  「もえずにいられるもんか。シラミちゃんがやけどして、ノミちゃんが泣く、扉ちゃんがキイキイなる、ホウキちゃんがはく、車ちゃんがかけるの」
 すると、小さな木は、
  「それなら、わたしもブルブルゆれよう」
  と、いいました。
 そして、ほんとうにブルブルゆれはじめましたので、葉という葉がのこらずおちてしまいました。
 ひとりの女の子が、小さな水がめをもってやってきましたが、それを見て、
  「木さん、どうしてそんなにふるえるの?」
  と、いいました。
  「ふるえずにいられるものですか。シラミちゃんがやけどして、ノミちゃんが泣く、扉ちゃんがキイキイなる、ホウキちゃんがはく、車ちゃんがかける、こやしちゃんがもえるの」
 すると女の子は、
  「それなら、あたしも水がめをこわしてしまうわ」
  と、いって、ほんとうに水がめをこわしてしまいました。
 それを見て、水のわきでている小さな泉(いずみ)が、
  「娘さん、どうして水がめをこわしてしまうの?」
  と、いいました。
  「水がめをこわさずにいられるものですか。シラミちゃんがやけどして、ノミちゃんが泣く、扉ちゃんがキイキイなる、ホウキちゃんがはく、車ちゃんがかける、こやしちゃんがもえる、木ちゃんがふるえるの」
  「ああ、そう」
  と、泉がいいました。
  「それなら、わたしもながれだそう」
 こういって、泉はおそろしいいきおいでながれだしました。
 それで、女の子も、木も、こやしも、車も、ホウキも、扉も、ノミも、シラミも、みんないっしょに水につかって、おぼれて死んでしまいました。
おしまい