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11月18日の世界の昔話
  
  
  
  ウサギとハリネズミ
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 むかしむかしの、秋のある日曜日の朝のことです。
 ハリネズミは、ウサギのすがたを見つけると、
  「おはよう」
  と、いいました。
 しかしウサギは、せっかくハリネズミがあいさつをしたのにへんじもせず、ひどく見くだしたような顔つきをしながらいいました。
  「きみは、どういうわけで、こんなに朝はやくから、畑のなかをかけまわっているんだね」
  「ああ、散歩(さんぽ)ですよ」
  と、ハリネズミはいいました。
  「散歩だって?」
  と、ウサギはわらいました。
  「いくらきみの足だって、もっとましなことにつかえそうなものだと、ぼくは思うがね」
 ハリネズミは、ひどく腹がたちました。
 ほかのことならなんだってガマンするのですが、足のことをいわれてはガマンできません。
 というのも、ハリネズミの足は生まれつきまがっていたからです。
  「なんだって?! じゃあ、きみの足ならもっと気のきいたことができるというのかい」
  「そりゃそうさ。なんたって、わたしの足はとってもはやくはしれるからね。・・・きみとちがってね」
  「じゃ、どっちがはやいかためしてみるがいいさ」
  「なんだい、足のまがったきみがわたしにかてるというのかい? おもしろい、そんなにやりたいんならやってみようじゃないか。でも、なにをかけるんだい?」
  「金貨一枚とブランデー(→お酒の一種)ひとビンだ」
  と、ハリネズミがいいました。
  「よし。じゃ、さっそくはじめよう」
  「いや、ぼくはまだ朝めしまえだ。これから家へかえって、ちょっと食ベてくる。三十分もしたら、またここにもどってくるよ」
 ウサギが承知したので、ハリネズミはそういってたちさりました。
 そして家に帰ると、おかみさんにいいました。
  「おい、はやくしたくをして、いっしょに畑へきてくれ」
  「いったい、どうしたんです?」
  と、おかみさんがたずねました。
  「ウサギを相手に金貨一枚とブランデーひとビンのかけをしたんだ。あいつとかけっこをするんだから、いっしょにきてくれ」
  「まあ、あきれたわ。あんた、頭がどうかしたんじゃないの? いくらなんでも、ウサギとかけっこをしようなんて」
  「だまってろ。おまえの知ったことじゃない。男のしごとに口をだすな。さあ、したくをして、いっしょにこい」
 ハリネズミのおかみさんは、しかたなくいっしょについていきました。
 ハリネズミは、おかみさんにいいました。
  「ぼくのいうことをよくきいててくれ。ほら、むこうに長い畑が見えるだろう。あそこでかけっこをするんだ。ひとつがウサギのコースで、もうひとつがぼくのコース。むこうがわからかけだすんだ。おまえはここに立ってさえすればいい。そしてウサギがむこうがわについたら、こっちから『ぼくはもう、ついてるぞ』と、どなってくれ」
 こうして畑のそばにやってきますと、ハリネズミはおかみさんに立っている場所をおしえて、それからスタート地点までいきました。
 スタート地点にいってみると、もうウサギがきていました。
  「さあ、はじめようじゃないか」
  と、ウサギがいいました。
  「いいとも」
  と、ハリネズミもいいました。
  「じゃ、いくぞ!」
  と、そういって、二人ともじぶんのコースにつきました。
  「いーち、にーい、さーん!」
 ウサギは、風のように畑をかけおりました。
 ところがハリネズミは、ほんの三歩ほどかけたかと思うと、畑の中にしゃがみこんで、そのままじっとしていました。
 ウサギが全速力で畑の反対側に走りつきますと、ハリネズミのおかみさんが、
  「ぼくはもう、ついてるぞ」
  と、声をかけました。
  「そんな、いつのまに!」
 ウサギはビックリしていいました。
 そして、もう一度走ってきた道をふり返ると、
  「もういちどだ! こんどはさっきのところまで勝負だ!」
  と、どなりました。
 そしてまた、風のようにかけだしました。
 ウサギがスタート地点にたどり着くと、ハリネズミが、
  「ぼくはもう、ついてるぞ」
  と、声をかけました。
  「まだまだ、もう一度だ。まわれ右!」
  と、ウサギはどなりました。
  「おやすいご用」
  と、ハリネズミはこたえました。
  「いくどでも、きみのすきなだけやろう」
 こうしてウサギは、それから七十三ベんも走りつづけましたが、そのたびごとにハリネズミが勝ちました。
 ウサギがどんなにはやく走っても、その場に待っているハリネズミかハリネズミのおかみさんかが、
  「ぼくはもう、ついてるぞ」
  と、いうのです。
 七十四へんめには、さすがのウサギも、もう走れなくなって、その場にたおれてしまいました。
  「こうさんだ、金貨とブランデーをやるから、ゆるしてくれ」
   その日からウサギは、ハリネズミをバカにしなくなったということです。
おしまい