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9月18日の世界の昔話
  
  
  
  寿命
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 むかしむかし、世界をつくった神さまは、つぎに生き物たちの寿命(じゅみょう)を決めようとしました。
 するとそこにロバがやってきて、神さまにいいました。
  「神さま、わたくしの寿命は、何年にしていただけましょうか?」
  「そうだな。三十年ではどうかね?」
 神さまの言葉に、ロバはかなしそうにいいました。
  「それは長すぎます。どうか、わたくしのつらいくらしをお考えくださいまし。わたくしは朝から晩まで、おもい荷物をはこんだりせねばならないのでございます。それなのに、ぶたれたり、けられたりして、『もっとはたらけ!』『もっとはたらけ!』と、こきつかわれるばかりでございます。どうか、寿命をもうすこしおへらしくださいまし」
 すると神さまは気のどくに思って、ロバの寿命を十八年にしました。
 ロバが安心してたちさると、つぎにイヌがあらわれました。
  「おまえはどのくらい生きたいのかね? ロバは三十年では長すぎるといったが、おまえはそれでよかろう」
 イヌは、こうこたえました。
  「神さま、わたくしの足は三十年も走れるほどじょうぶではございません。しかも、ほえる声がでなくなって、かみつく歯もぬけてしまったら、『ウーウー』と、うなるよりほかに、なにがいったいできましょうか」
 神さまはイヌのいうことはもっともだと思って、イヌに十二年の寿命をあたえました。
 そのつぎに、サルがやってきました。
  「おまえはたぶん、三十年生きたいと思うのだろうね。おまえはロバやイヌみたいにはたらかなくてもいいし、いつもたのしそうにしているからね」
  「いいえ、神さま」
  と、サルがこたえました。
  「わたくしは、いつも人をわらわすために、おかしなイタズラをしたり、ヘんな顔をしたりしなければなりません。しかも、人からリンゴをもらっても、かんでみるとすっぱかったりするのです。三十年も、こんなふうにくらしていくことは、とてもがまんできません」
 そこで神さまは、サルに十年の寿命をあたえました。
 さいごに、人間があらわれました。
  「お前の寿命は三十年ということにしよう。それでよいね」
  と、神さまがいうと、人間は大きく首を横にふりました。
  「三十年とは、なんてみじかい寿命でしょう。やっと自分の家をたてて、じぶんの家のかまどで火がもえるようになったばかりで、死ななければいけないのですか! 花がさいたり実がなったりする植木をうえて、やっとこれから人生をたのしもうというときにですか! おねがいです神さま、寿命をおのばしくださいまし」
  「では、ロバがいらないといった十八年たしてやろう」
  と、神さまがいうと、
  「十八年たしても四十八年です。それはたりません」
  と、人間はこたえました。
  「では、イヌのぶんの十二年もやることにしよう」
  「まだまだすくなすぎます」
  「よし、それでは、サルのぶんの十年もたしてやろう。だが、もうこれいじょうはやれないよ」
  と、神さまはいって、人間を帰らせました。
 このようなわけで、人間の寿命は七十年となったのです。
 はじめの三十年は、人間そのものの寿命です。
 その三十年間に、人間は大きくなって子どもをつくります。
 そのつぎにくるのが、ロバの十八年です。
 このあいだは、人間はいろいろな重荷をおわされます。
 家族たちにご飯を食べさせるため、いっしょうけんめいにはたらかなくてはなりません。
 そしてそのつぎに、イヌの十二年がやってきます。
 このあいだ人間は、足腰がよわくなり、ものを食べる歯も抜けていくのです。
 この十二年がおわると、さいごにくるのがサルの十年です。
 いつもたのしそうにしていますが、だんだんと頭がにぶくなり、わらわれるつもりはなくても、おかしなことをしてわらわれることがあります。
   これが、人間の一生なのです。
おしまい