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9月2日の世界の昔話

リジーナとネコの家

リジーナとネコの家
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 むかしむかし、リジーナというやさしい女の子がいました。
 リジーナは町はずれの小さな家で、欲ばりのお母さんと、意地悪なおねえさんのペピーナといっしょにくらしていました。
 ある日、お母さんがリジーナに言いました。
「リジーナ。家のお金が少なくなってきたから、お前は外で働いておいで。私とペピーナは、家を守って留守番しているからね」
 リジーナは、
「はい」
と、答えて家を出ました。
 お母さんは、自分に似ているペピーナばかり可愛がります。
 そしていつだって、リジーナが働いて持ってくるお金をあてにしていました。
 でもやさしいリジーナは、文句一つ言わずに、
「お母さんとねえさんが喜ぶのなら、一生懸命働くわ」
と、出かけて行くのでした。
 町の通りに出るとリジーナは、プンプン怒ってお屋敷から出て来る女の人に会いました。
「いったい、どうしたのですか?」
 リジーナがたずねると、女の人はお屋敷を指さしながら、顔をまっ赤にしていいました。
「まったく、この屋敷にはネコしかいないと聞いたから、仕事は楽だろうと思ったけれど、とんでもないのよ。いくら掃除しても毛は落ちているし、カーテンは引きちぎるし、柱で爪はとぐし、私が怒れば飛びついて来るし。もう、ネコの世話と屋敷の仕事はコリゴリよ!」
 それを聞いたリジーナは、ニッコリ笑って言いました。
「では、私にそのお仕事をさせてくださいな」
「なら、市長さんに頼むといいわ」
 女の人はそう言うと、行ってしまいました。
 さっそく市長に頼んだリジーナは、お屋敷の大きな扉をノックしました。
「こんにちは。私はリジーナです。ここで働かせていただきます」
 広間にいるネコたちは、リジーナをにらみました。
 ソファーには白ネコ、まどの棚には黒ネコとブチネコ、テーブルの上には灰色のネコ、テーブルの下には灰色の子ネコたち、カーテンのかげにも、大きな花びんの後ろにも、たくさんのネコたちがいます。
 リジーナは早速エプロンをつけて、仕事を始めました。
 じゅうたんの上に散らばる毛も、一本一本ていねいにひろいます。
 破れたカーテンはとりはずし、チクチクとぬいました。
 その間も、ネコたちはリジーナのじゃまをします。
 リジーナの前や後ろを歩きまわったり、背中に飛びついたり、わざと音をたてて柱で爪をといだりします。
 でもリジーナは怒ったりせず、ニコニコと笑うだけです。
 そして歌を歌いながら、おいしい夕食を作り、まずはネコたちに食べさせました。
 そしてネコたちの食べ終わった食器を洗ってから、自分はパンとスープだけの食事をしました。
 それからリジーナは、ソファーに座り、
「さあ、いらっしゃい」
と、一匹ずつネコをひざに乗せて、ブラシをかけてあげたり、けがをしているネコには手当をしたり、年よりのネコにはていねいになでてあげました。
 すると太った大きな茶色のネコが、人間の言葉でこう言ったのです。
「リジーナ、いつまでもネコの家にいておくれ。我々ネコは、そのむかし、町にネズミがあふれたときに、ネズミを全部退治したんじゃ。それで市長がネコのために、この屋敷をたててくれた。人間のお手伝いさんも一人置いてくれるようになった。でも人間は、我々がネコだと思って、気にいらないと蹴飛ばすし、ほうきでたたいたりするんじゃ。こうしてなでてもらったのは、生まれて初めてじゃ」
「まあ、そうだったの。ネコさんたちは、この町を救ってくれたのね」
 リジーナはニッコリほほえむと、ネコたちに言いました。
「さあ、みんなで寝ましょう。私が子守歌を歌ってあげますよ」
 ネコたちは大喜びで、リジーナといっしょにベッドの中へもぐり込みました。
 リジーナはすんだきれいな声で、自分で作った子守歌を歌いました。
♪星の光よ
♪優しくそっと
♪ネコたちを守っておくれ
♪月の光よ
♪その輝きを
♪ネコたちに与えておくれ
 リジーナはネコたちが気持ちよく過ごせるように、屋敷の中も広い庭も、一生懸命掃除をしました。
 朝食も夕食も、心をこめて作りました。
 仕事の合い問には、ネコを順番にひざに乗せて、歌いながらなでてやりました。
 やがてネコたちの方も、リジーナの仕事のじゃまにならないように注意しました。
「みんなが協力してくれるから、私の仕事はとても楽しいわ。ありがとうね」
「いいや、みんな、リジーナの笑顔を見ていたいだけさ」
 リジーナとネコたちは、本当に仲良く楽しくくらしました。
 そして何日かたつと、リジーナがときどきさびしそうな顔をすることに、ネコたちは気づきました。
「リジーナ、どうしたの? もしかして、この屋敷にいるのがつらくなったの?」
「いいえ、とんでもないわ。・・・ただ、私の帰りを待っているお母さんとねえさんに、会いたくなったの」
 そう聞くと、ネコたちはホッとした顔で、
「なんだ、それなら会いに帰るがいいさ」
「そうだよリジーナ。ああ、その前に、ちょっとついておいで」
 ネコたちは、リジーナを地下室に連れて行きました。
 地下室には、大きなツボと小さなツボがありました。
「どちらでもよいから、ツボの水で顔と手を洗ってお行き」
 ネコに言われて、リジーナは小さなツボの水で顔と手を洗いました。
 すると手も顔も、たちまちまっ白で、ツヤツヤとかがやきました。
 そしてネコたちは、
「いままでのお礼だよ」
と、ポケットいっぱいに、金貨をつめてくれました。
「わあ、どうもありがとう。では、行ってきます」
 リジーナは、よろこんで帰りました。
 お母さんとペピーナは、リジーナの帰りを待ちくたびれていました。
 いいえ、本当はリジーナではなく、リジーナが持って帰るお金を、待ちくたびれていたのです。
 だからリジーナが帰ると、市長からもらったお給料と、ネコからもらったポケットいっぱいの金貨を、全部とりあげてしまいました。
 そしてリジーナが美しくなってもどって来たので、今度はペピーナがネコの家へ行くと言いだしました。
 次の日、ペピーナはネコの家に行きました。
 ネコたちは、リジーナのねえさんだから、きっとやさしい人に違いないと思いました。
 けれど、ペピーナはネコたちがちょっと歩くと、
「毛が落ちるじゃない!」
と、ほうきで追いかけます。
 夕食も自分ばかりごちそうを食べて、ネコたちにはそのわずかな残りを、外に投げて食べさせました。
 そしてペピーナは、地下室で大きいツボと小さいツボを見つけると、まよわず大きいツボに手をつっ込みました。
 そのとたん、顔は油と灰でベタベタになり、うす汚れた灰色の顔になってしまったのです。
 ペピーナはプリプリ怒りながら屋敷を出て、町の通りに出ました。
 そのとき、ガラガラと馬車(ばしゃ)を引いたロバが通りかかり、しっぽでペピーナの顔をたたきました。
「わっ!」
と、思ったときはもうおそく、なんとペピーナのおでこには、ロバのしっぽの長い毛が十本ほどくっついてしまったのです。
 リジーナはペピーナの帰りを、窓辺であみものをしながら待っていました。
 そこへ、お城の王子さまがウマに乗って通りかかったのです。
 窓辺のリジーナを一目見ると、王子さまは、
「なんと可愛らしい人だろう。ぜひ、花嫁にしたい」
と、思いました。
 そしてリジーナのお母さんに、その気持ちを伝えて、
「明日、花嫁にむかえにきます」
と、いったのです。
 そこへペピーナが帰って来たので、お母さんはすぐにリジーナを戸だなにかくしました。
 それから白いベールを用意して、ペピーナにかぶせました。
 王子さまにはリジーナではなく、自分の可愛がっているペピーナと結婚させようと思ったのです。
 朝が来て、王子さまがリジーナをむかえに来ました。
 お母さんはすまして、白いベールをかぶせたペピーナをウマに乗せました。
 町の通りには大勢の人たちが出て、王子さまと白いベールの王女の結婚をお祝いしました。
 そのとき、ネコたちが通りに飛び出して、歌を歌い出したのです。
♪王子さまは、だれと結婚するの?
♪ベールをあげれば、すべてがわかる
♪本当の花嫁は、戸だなの中
♪ここにいるのは、ニセ者さ。
「なんだって?」
 王子さまはウマを降りて、花嫁の白いベールをあげました。
「あっ!」
 白いベールの下には、灰色の顔でおでこからロバのしっぽの生えたペピーナがいたのです。
 王子さまは急いで戻ると、戸だなの中のリジーナを助け出してウマに乗せました。
 町の人たちは、美しいリジーナに大喜びです。
 王子さまとリジーナは、すぐに結婚式をあげました。
 そして町中の人をお城によんで、お祝いのバーティーをしました。
 もちろん、あのネコたちもよばれて、リジーナの幸せを心からお祝いしたのです。

おしまい

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