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7月11日の世界の昔話
おくびょうウサギ
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むかしむかし、インドの西の海岸に、ビルバという木がまじってはえた、ヤシの林がありました。
そこにはとてもおくびょうなウサギが一匹すんでいて、ある日、昼寝をしながら、ふと、こんなことを考えました。
「もしも、この地面がわれたら、いったいぼくはどうなるんだろう?」
するとそのとき、すぐそばの地面で、バシンと、ものすごい音がしました。
「そらきた! 地面がとうとうわれたぞ!」
おくびょうなウサギははね起きて、いちもくさんに逃げ出しました。
「どうしたの。なにかあったの?」
ほかのウサギたちが、追いかけてきて聞きました。
「地面がわれたんだ! 大急ぎで安全な場所へ逃げるんだ!」
おくびょうなウサギは、ふり向きもせずに走りながら答えました。
「たいへんだ、地面がわれた!」
「たいへんだ、地面がわれた!」
と、ウサギたちは、おくびょうなウサギのあとに続いてかけ出しました。
百匹になり、千匹になり、とうとう十万匹にもなって、ウサギたちはいっせいに走っていきました。
それを見た、森や野原のけものたちが、
「どうしたんだ? どうしたんだ?」
と、いいながら、あとに続いてかけ出しました。
ウサギの次にシカ、次にイノシシ、次に大シカ、次に水牛(すいぎゅう)、次に野牛(やぎゅう)、次にサイ、次にトラ、最後にゾウです。
おくびょうなウサギを先頭にして、これだけのけものたちがかけ出したのですから、それはもうたいへんなさわぎです。
森の奥に、一頭の大きなライオンが住んでいました。
ライオンは、逃げていくけものたちを見て、
「ほうっておいたら、大変なことになる」
と、思いました。
それで飛び出していって、ものすごい声で三度うなりました。
「止まれ、止まれ、止まれ! いったい何事だ!」
「はい、地面がわれたのです」
と、ゾウが止まっていいました。
「ではいったい、だれがそれを見たというのだ」
「トラです」
「サイです」
「野牛です」
「水牛です」
「大シカです」
「イノシシです」
「シカです」
「ウサギです」
「先頭のウサギです」
と、順番に答えていって、ライオンは先頭のおくびょうなウサギに聞きました。
「おまえは、ほんとうにそれを見たのか?」
「はい、聞いたのです。たしかに、バリリリッ! と地面のわれる音がしました」
「見ていないのか? 聞いただけでは、あてにならない。どれ、わしが調べてきてやる。みんなはここで待っていなさい」
大きなライオンは、おくびょうなウサギを背中に乗せて、風よりも速く走り、ビルバの木がまじってはえた、ヤシの林に着きました。
「ここです。この木の下で聞いたのです」
「・・・やれやれ。よくごらん。どこの地面が割れているというのだね。おまえが聞いた音というのは、これが落ちた音だったのではないのかね」
と、ライオンはそばに落ちている、大きなビルバの実をころがしていいました。
「そうかも、しれません」
ウサギは、はずかしくなりました。
ライオンは、またウサギを乗せて、大急ぎでけものたちのところへ帰りました。
そして、くわしく見てきたことを話しました。
「よくたしかめもせずに、ほかの者がいったことをすぐ本気にして、かけ出したりしてはいけないね」
ライオンにしかられて、けものたちはすごすごと、自分たちの住み家に帰っていきました。
おしまい