きょうの新作昔話
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2008年 9月25日の新作昔話
 
蟹ヶ淵(かにがふち)
長崎県の民話
 むかしむかし、平戸の町のはずれに蟹ヶ淵(かにがふち)という深い淵があって、ここには主が住みついていました。
   その頃、大田の平(おおたのひら)に三吉(さんきち)という百姓がいて、そこの家には三人の男の子がいました。
   ある日の事、二番目の子どもが遊びに出たまま、いつまでたっても戻ってきません。
   家族は心配して探しましたが、どこを探しても見つからないのです。
   するとそれからしばらくたったころ、村のはずれにあるあの淵に、その子どもの着物だけが浮いていたのです。
   さあ、村中は火のついたような大騒ぎになりました。
  「むかしからあそこには、主がおるというぞ」
  「きっと、主に食われてしまったに違いない」
   やがてその話は、松浦(まつら)の殿さまの耳にまで届きました。
   それを聞いた殿さまは、さっそく家来を集めて、
  「百姓とはいえ、領地の者は家族も同然。いかに淵の主でも、その家族を襲うとは絶対に許せん!」
  と、自ら先頭を切って、淵の主退治に出かけたのです。
   そして家来や村の人々が引き止めるのを振り切ると、ふんどし姿で刀を口にくわえて、一人で淵に飛び込んだのです。
   家来も村人も、ハラハラしながら待っていると、やがて殿さまが水の中から顔を出しました。
  「ここには何もおらん。あっちを探すとしよう」
  と、今度は岸からもっと離れた、草がボウボウに生い茂るあたりまで泳いでいって、もう一度 水の中にもぐりました。
   さて、しばらく時間がたったのですが、殿さまはなかなか上がってきません。
   みんなが心配になってきたとき、急に淵の水がにごってきました。
   よく見ると、そのにごりは血の色です。
  「大変だー! 殿さまがやられてしもうた!」
   家来の一人が今にも飛び込もうとしたとき、いきなり水の中から元気な殿さまが姿を現しました。
  「おーい。主は退治したぞ! すまんが、引き上げるのを手伝ってくれ」
   殿さまの指示で、さっそく退治した主を引き上げる事になりました。
   ところが、その主が重すぎて引き上げられません。
   そこで家来も村人も一緒になって何とか引き上げると、それは、たたみが三畳分ほどの大きなこうらをもった、大ガニだったのです。
   殿さまは、一人でこの大ガニを退治したのです。
   その後、淵で死ぬ者はいなくなり、いつしかこの淵は、『蟹ヶ淵(かにがふち)』と呼ばれるようになったそうです。
おしまい
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