7月11日の日本の昔話
カッパのきず薬
むかし、武田信玄(たけだしんげん)の家来に、主水頭守清(もんどのかみもりきよ)という医者がいました。
あるとき、ウマに乗って川を渡っていたら、ウマが途中で動きません。
「はて?」
守清(もりきよ)が下を見ると、川の中から黄色の長い腕がニューッとのびていて、ウマの足をしっかりとにぎっているのです。
「その手をはなせ!」
守清がどなりました。
それでもはなそうとしないので、腰の刀をぬき、その腕を切りおとしました。
動けるようになったウマは、いきおいよく川を渡り、むこう岸につきました。
ところが、ウマの足にはまだ腕がくっついたままです。
ウマからおりてよく見てみたら、どうやらカッパ(→詳細)の腕のようです。
守清はビックリするどころか、ひどく喜んで、
「これはめずらしいものを手に入れたぞ」
と、その腕をウマの足からはずして、家へ持ちかえりました。
さて、その晩のこと。
守清が寝ようとしていたら、こっそり部屋にやってきた者がいます。
「なに者だ。名を名のれ!」
守清は枕もとの刀をつかむと。
「カッパです」
「なに、カッパだと」
守清が明かりをつけると、なるほど、一方の腕をなくしたカッパがすわっています。
「なに用だ!」
「はい、じつは、わたしの腕を返してもらいに来ました。もう二度とウマの足を引っぱったりしませんから、どうか腕をお返しください」
「とんでもない。なんなら、その残った腕も切りおとしてやろうか?」
「そればかりはおゆるしください。もし腕を返してくださるのなら、日本一よくきくきず薬のつくり方を教えましょう。これがわたしのつくった薬です」
カッパは、貝がらに入った薬を見せました。
「ならば、この場で腕をくっつけて見せろ。できるか?」
「おやすいこと」
守清が切りおとしたカッパの腕を手渡すと、カッパはその切り口に貝がらの薬をたっぷりとつけ、もとのようにくっつけてしまい、腕をグルグルとまわしてみせました。
きずぐちを見てみると、もはやきずあともありません。
「なるほど、よくきくものじゃ。ひとつ、そのつくり方を教えてもらおうか」
「はい」
カッパは、薬のつくり方をこまかく話しました。
守清は、それを忘れまいとしっかり頭にたたきこみました。
すっかりうれしくなった守清が、
「ところでカッパ、いっしょに酒でも飲まんか」
と、いって、酒をとりに行こうとしたとたん、ハッと目がさめました。
「なんだ、いまのは夢だったのか?」
あわてて床の間を見たら、そこへおいておいたはずのカッパの腕がありません。
「そんなばかな」
守清はビックリしてとび起き、縁側(えんがわ)へ出ました。
すると、そこには水がこぼれていて、もみじの形をしたカッパの足跡が、テンテンとついています。
次の日、守清はカッパに教わったとおりの薬をつくって、信玄のいる館へ行きました。
そして、けがをしているさむらいたちに、この薬をつけてみるとどうでしょう。
何日も苦しんでいた痛みがうそのようにとれ、きず口もたちまちふさがりました。
「なるほど、こいつはよくきくわい」
そこで守清は、信玄の家来をやめて薬屋になり、この薬に『カッパのきず薬』という名前をつけて売りだしたのです。
よくきく『カッパのきず薬』の評判はたちまち広まり、けがをした人が、全国から買いに来るようになりました。
おかけで店はどんどん大きくなり、守清がなくなったあとも、書き残された薬のつくり方によって、店は何代にもわたってはんじょうしたそうです。
おしまい
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