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        世界のとんち話 第14話 
         
          
         
悪魔をだましたイワン 
ベラルーシ共和国の昔話 → ベラルーシの国情報 
       むかしむかし、あるところに、三人の息子をもったおじいさんとおばあさんがいました。 
   一家はその日の食べ物にもこまるほど、貧乏(びんぼう)でした。 
   そのうちに、おばあさんが死にました。 
   おじいさんもおばあさんのあとを追うように、おもい病気になりました。 
   おじいさんは死ぬまえに、息子たちをよんでいいました。 
  「おまえたちにわけてやるものもないが、こんなものでがまんしておくれ」 
   こういって、一番上の息子には黄色いネコをやり、まんなかの息子にはひきうすを、一番下の息子のイワンには、わらじをつくる木の皮をやりました。 
   おじいさんが死んでしばらくすると、息子たちは世の中にでてみようと思いました。 
   一番上の兄さんは、黄色いネコをだいて、仕事をさがしにいきました。 
   ドンドン歩いていくと、夜になりました。 
   兄さんは一けんの家の戸をたたいて、とめてもらおうとしました。 
   すると家の人が、こんなことをいいました。 
  「旅のおかた、この家はどこもかしこもネズミだらけで、ホトホトこまっています。あなたも、かじられてしまいますよ」 
  「心配いりません。なんとかなるでしょう」 
   兄さんは、黄色いネコといっしょに、ゆかの上へねました。 
   つぎの朝、家の人は目をさましてみてビックリ。 
   ゆかの上に、ネズミの死がいが山のようにつんであって、そばで黄色いふしぎなけものが、のどをゴロゴロならしているではありませんか。 
   その国の人たちは、ネコという動物を見たことがなかったのです。 
  「旅のおかた、おねがいです。どうかこのけものを売ってください」 
  「とんでもない。これは売りものではありません」 
  と、兄さんはことわりました。 
   この話はたちまち、この国の王さまの耳にはいりました。 
   王さまは、自分のご殿に兄さんをとまらせました。 
   ネコはかたっぱしから、ネズミを殺しました。 
   あくる朝、山のようなネズミの死がいを見た王さまは、黄色いけものがほしくてほしくてたまりません。 
  「なんでも、ほしいものをいいなさい。そのかわり、そのけものをゆずってくれ」 
  「王さま。銀貨をのこらずまいてくだされば、ネコをさしあげましょう」 
   王さまはしかたなく、自分の銀貨をありったけ、まきちらしました。 
   上の兄さんは、銀貨を集めて国ヘ帰りました。 
   そして、りっぱな家をたてて、お嫁さんをむかえて、しあわせにくらしました。 
   それを見たまんなかの兄さんも、ひきうすをかついで、しあわせを見つけにでかけました。 
   ドンドン歩いていくと、夜になりました。 
   見ると、森のそばに一けんの小屋があります。 
   それは、だれも住んでいない小屋でした。 
   まんなかの兄さんは、そこにとまることにしました。 
   その晩、ドロボウたちが、その小屋にはいってきて、ぬすんできた金貨をゆかにつみあげました。 
   そのとき、小屋のすみでねていたまんなかの兄さんが、ねがえりをうちました。 
   そのはずみにひきうすにぶつかって、ガラガラガラン! と大きな音をたてました。 
   おどろいたドロボウたちは、金貨をほうりだして、いちもくさんににげていきました。 
   まんなかの兄さんは、金貨をひろい集めて国へ帰りました。 
   そして、上の兄さんのように、しあわせにくらしました。 
   それを見た、すえっ子のイワンはいいました。 
  「どれ、こんどはぼくが、運だめしをする番だ」 
   イワンはわらじをはいて、旅にでかけました。 
   ドンドン歩いていくうちに、わらじがボロボロになってきました。 
   イワンは沼地のそばにすわって、新しいわらじをつくるために、木の皮をさきはじめました。 
   するととつぜん、沼にブクブクブクと、あわがたって、悪魔(あくま)があらわれました。 
  「やあ、イワン。なにをしているんだね?」 
  「見ればわかるだろう。ひもをつくっているんだよ」 
  「なにに、つかうのかね?」 
  「この沼から、おまえたち悪魔をひっぱりだして、市場(いちば)で売ろうと思ってね。なにしろここには、悪魔がウヨウヨいるからな。さぞかし、もうかるだろうよ」 
  「ちょっと、まってくれよ! イワン、いや、イワンさん。それはこまるよ。なんでもほしいものをだすから、それだけはかんべんしてくれよ」 
  「そうだな。ボウシにいっぱい金貨をくれれば、ゆるしてやろう」 
  「それぐらいなら、おやすいご用だ」 
   悪魔が金貨をとりに沼の中にもぐったすきに、イワンは、ほそくてふかい穴をほって、その上に自分のそこのぬけたボウシを乗せました。 
   やがて悪魔が、金貨の袋を持ってもどってきました。 
   悪魔は、イワンのボウシのなかに金貨を流しました。 
   けれども、ちっとも金貨はたまりません。 
   悪魔は、 
  (おかしいなあ) 
  と、思いましたが、しかたなく、またひと袋持ってきました。 
   これでどうにか、ボウシはいっぱいになりました。 
  「さあ、一人ではおもくて持ちあげられまい。てつだってやろう」 
  「いや、てつだってくれなくてもいいよ」 
   イワンはことわりましたが、悪魔は聞きません。 
   よいしょと、ボウシを持ちあげて、ボウシの下の穴を見つけてしまいました。 
  「こいつ、だましたな! どうしてやるか、親分のところへ聞きにいってくるから、まってろ!」 
   話を聞いた親分は、悪魔の中で一番の力もちを、イワンのところへやりました。 
   力もちは沼からとびだすと、イワンにいいました。 
  「すもうに勝ったほうが、金貨をとることにしよう」 
  (よわったなあ。こんなやつには、かないっこないぞ) 
  と、イワンは思いながら、あたりを見まわしました。 
   むこうのモミの木の下に、大きなクマがすわっています。 
   イワンは、悪魔にいいました。 
  「いいとも。だが、おれとすもうをとるまえに、あそこにおれのじいさんがいるから、まず、じいさんとやってみろ」 
   力もちは、クマのところヘかけていきました。 
  「さあ、こい。じいさん」 
   クマはたちあがると、いきなり悪魔をつかみました。 
   その力のものすごいこと。 
   悪魔の力もちはとてもかなわず、やっとのことでにげだしました。 
  「とてもだめです。イワンのじいさんにだってかないません」 
   それを聞いた悪魔の親分は、こんどは一番足のはやい男をやりました。 
   はや足は沼からとびだして、イワンにいいました。 
  「かけっこに勝ったほうが、金貨をとることにしよう」 
   イワンは、あたりを見まわしました。 
   見ると、ヤブの下にウサギがいます。 
  「いいとも。だがそのまえに、あそこにいる、すえの息子とやってみろ」 
   はや足は、さっそくウサギのそばへかけていこうとしました。 
   ところが、ウサギは悪魔がきたものですから、ビックリしてヤブの中へとびこみました。 
   はや足はむちゅうで追いかけましたが、どうしても、ウサギに追いつくことはできません。 
   それを聞いた悪魔の親分は、こんどこそと、口笛の名人をやりました。 
   笛ふきは沼からとびだして、イワンにいいました。 
  「口笛のうまいほうが、金貨をとることにしよう」 
  「いいとも。まず、おまえさんからだ」 
   悪魔が口笛をふくと、森の木はふるえて、木の葉がちりました。 
   イワンがふく番になりました。 
   イワンは、悪魔にいいました。 
  「さて、笛ふきくん。目をしばっておいたほうがいいよ。さもないと、おでこのほうヘ、目がずりあがってしまうからな」 
   笛ふきはおどろいて、布でかたく目をしばりました。 
  「さあ、ふいてくれ」 
   笛ふきがいうと、イワンはこん棒をふりあげて、えいっとばかりに、笛ふきのひたいをなぐりつけました。 
   笛ふきはあまりの痛さに、腰をぬかしそうになりました。 
  「これはほんの小手しらベ。こんどは、もっとでっかいやつをふくぞ」 
  「や、やめてくれ。もうたくさんだ。金貨はおまえにやるから、口笛だけはやめてくれ」 
   そこでイワンは、山ほどの金貨をかついで、めでたく国へ帰りました。 
      おしまい 
         
         
        
       
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