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        世界のわらい話 第31話 
         
          
         
チッコ・ペトリロ 
イタリアの昔話 → イタリアの国情報 
       むかしむかし、あるところに、娘が一人いる夫婦がいました。 
   そして、娘の結婚する日がやってきました。 
   結婚式には、親戚や知りあいの人たちを大勢まねきました。 
   さて、教会での結婚式も無事にすんで、今度は娘の自宅で、はなやかなお祝いのパーティーを開く事になりました。 
   ごちそうが山のようにならべられましたが、まだブドウ酒が出ていません。 
   そこで父親が、娘の花嫁にいいました。 
  「ブドウ酒がなくちゃ、どうにもならん。地下の酒ぐらにいって持っておいで」 
  「はーい」 
   花嫁は、酒ぐらにおりていきました。 
   そしてブドウ酒のビンを酒だるの下にあてて、せんをぬいてブドウ酒がビンにいっぱいになるのを待っていました。 
   花嫁はその間、ボンヤリと考えごとをはじめました。 
  「わたし、とうとう結婚したんだわ。これから九ヶ月もすると、息子が生まれるわ。名前は、何とつけようかしら? ・・・そう、チッコ・ペトリロにしましょう。服を着せて、くつ下をはかせて、可愛がって育てて。・・・でも、でもだけど、もし、かわいいチッコが死んだりしたらどうしましょう? ・・・ああ、かわいそうなチッコ、どうして死んでしまったの!」 
   花嫁は、ワーッと泣きだしてしまいました。 
   酒だるのせんを開けっぱなしでしたから、ブドウ酒は、ザアーザアーと床に流れっぱなしです。 
   テーブルについていたお客たちは、いつお酒がくるのかと待っていました。 
   でも、いつまでたっても花嫁はもどってきません。 
  「ちょっと、酒ぐらへいって見ておいで」 
  と、父親が奥さんにいいました。 
  「そうですね。ひょっとしたら、あの子は眠ってしまったのかもしれませんね。小さいときから、酒ぐらでよく昼寝をする子だったから」 
   お母さんが酒ぐらにおりていくと、娘がオイオイとないています。 
  「まあっ! どうしたの? なにがおきたの?」 
  「ああ、お母さん。あのね、今日、わたしは結婚したでしょう。そうすれば、九ヶ月あとには息子が生まれるわ。その子の名前は、チッコ・ぺトリロにしようと思うの。だけどね、お母さん。もし、チッコが死んだらと思うと、かなしくて、かなしくて」 
   娘はまたも、ワーッと泣きだしました。 
  「ああ、かわいそうな、わたしの息子」 
  「ああ、かわいそうな、わたしの孫」 
   娘とお母さんは、だきあって泣きだしました。 
   テーブルについていた人たちは、いくらまってもブドウ酒が出ないので、イライラしてきました。 
  「二人とも、何をしているんだ? わしが見にいって、どやしつけてやろう!」 
   父親は、酒ぐらにおりていきました。 
   すると、妻と娘は足までブドウ酒につかりながら、だきあって泣いています。 
  「おい。何がおきたんだ?」 
  「お父さん、聞いてください。この子は今日、結婚したでしょう。するとまもなく、息子が生まれますね。そこでわたしたち、チッコ・ペトリロって名前をつけることにしたんです。でも、その可愛いチッコが死んだらと思うと、かなしくて、かなしくて・・・」 
  「うん。もっともだ、もっともだ。・・・おお、なんてかわいそうなチッコ・ペトリロ」 
   父親も、泣きだしてしまいました。 
   三人がなかなか戻ってこないので、 
  「ぼくが、見にいってきましょう」 
   花むこはそういって、酒ぐらにおりていきました。 
   すると三人は、足までブドウ酒につかりながら泣いているのです。 
  「いったい、どうなさったんです!」 
  「あなた!」 
  と、花嫁がいいました。 
  「わたしたち結婚したんですから、息子ができるわね。わたしはその子に、チッコ・ペトリロと名前をつけることにしたんです。でも、せっかく育ったチッコが、もしも死んだらと思うと、かなしくてかなしくて。それで泣いているんです」 
  「はあ?」 
   花むこは、冗談をいっているのだと思いました。 
   ところが、本気でいっているのがわかると、三人にどなりました。 
  「あなたたち三人は、そろいもそろってなんてバカ者なんだ。みんなお酒が出るのを待っているじゃないか。いままでこんなバカ者ぞろいとは思ってもみなかった。バカバカしくて、気がおかしくなる。こんな家ではとてもくらせない。そうだ、いっそ旅に出よう。妻よ。お前の顔を見ずにいたら、ぼくの気もしずまるにちがいない。旅に出て、もし世間にお前よりもっとバカな者がいたら、もどってきていっしょにくらしてやる!」 
   花むこはさんざんののしって、酒ぐらを出ていきました。 
   そしてふりかえりもせずに、旅に出たのです。 
   旅に出た花むこは、ある川のたもとにつきました。 
   すると小舟につんだ、はしばみ(→カバノキ科の落葉低木)の実を、大きな熊手(くまで)ですくいあげている人がいました。 
   でも、はしばみの実は熊手のすき間からこぼれ落ちて、なかなかすくえません。 
  「もしもし。熊手で、何をしているのですか?」 
  「ああ、さっきから何度もすくっているのだが、ちっともすくいあげられないんだ」 
  「あたりまえですよ。なぜ、シャベルをつかわないんです?」 
  「シャベル? そうか、なるほどね。そいつは気がつかなかった」 
   それを聞いて、花むこは思いました。 
  (妻たちよりも、おバカな人が一人いた) 
   しばらくいくと、川の水を小さなスプーンですくって、ウシに飲ませている人がいました。 
  「もしもし。そんな小さなスプーンで、何をしているのですか?」 
  「はい、さっきから三時間もやっていますが、ウシののどのかわきが、なかなかとまらないのです」 
  「あたりまえですよ。なぜ、ウシに直接川の水を飲ませてやらないんです?」 
  「直接? おおっ、それはいい考えですね」 
   それを聞いて、花むこは思いました。 
  (これで、おバカが二人目だ) 
   またしばらく行くと、畑のくわの木のいただきに、ズボンを手にして立っている女の人がいました。 
  「もしもし。そんなところで、何をしているのですか?」 
  「まあ、だんな、聞いてくださいよ。夫がこの間、死んだのですが、お坊さんがいうには、夫は空の上の天国へ行ったというのですよ。そこであたしは、夫が空からもどってきたら、このズボンをはかそうと思って待っているのですよ」 
   それを聞いて、花むこは思いました。 
  (ついに、三人目のおバカだ。信じられないが、世間には妻よりもバカな者が三人もいた。仕方ない。家へ帰るとするか) 
   そして花むこは、家へかえりました。 
   この後、うまれた子どもにチッコ・ペトリコと名づけましたが、チッコ・ペトリコはとても長生きしたそうです。 
      おしまい 
         
         
        
       
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