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日本の有名な話 第8話

鉢かづき姫

鉢かづき姫

♪音声配信
TIME 8分26秒 音声 スタヂオせんむ
TIME 9分09秒 朗読 田布施座

 むかしむかし、河内の国(かわちのくに→大阪)に、ひとりの大金持ちが住んでいました。
 なに不自由ない暮らしをしていましたが、子どもだけはどうしてもさずかりません。
 それで毎晩、長谷寺(はせでら)の観音さま(かんのんさま)に手を合わせてお願いをして、ついに念願の子どもが生まれたのです。
 その子どもはお母さんによく似た、美しい姫です。
 ところが姫が十三才になった年、お母さんは重い病気にかかりました。
 お母さんは、姫を枕元に呼ぶと、
「わたしはまもなく遠い所へ行きます。わたしがいなくなるのは運命ですから、悲しむ必要はありません。さあ、母の形見に、これを頭にのせていなさい。きっと、役にたちますからね」
 そういって、重い箱を姫の頭の上にのせたばかりか、大きな木の鉢(はち)までかぶせました。
 そして、お母さんはなくなりました。
 お父さんは姫の頭の上の鉢を取ろうとしますが、どうしてもはずせません。
 そのために姫は『鉢かづき』といって、バカにされたり、いじめられたりしました。
 やがて、お父さんに、二度目の奥さんがやってきました。
 この新しいお母さんが悪い人で、鉢かづき姫にいじわるをしたり、かげ口をたたいたり、最後にはお父さんをうまくだまして、鉢かづき姫を追い出してしまったのです。
 家を追い出された鉢かづき姫は、シクシク泣きながら、大きな川のほとりにやってきました。
「どこへ行ってもいじめられるのなら、ひと思いに、お母さまのそばへいこう」
 ドボーン!
 思いきって川の流れに飛びこみましたが、木の鉢のおかげで浮きあがってしまいました。
 鉢かづき姫は、死ぬことさえ出来ないのです。
 村の子どもたちが、鉢かづき姫に石を投げました。
「わーい。頭がおわん。からだが人間。お化けだあー」
 ちょうどそのとき、この国の殿さまで、山陰(さんいん)の中将(ちゅうじょう)という人が、家来を連れてそこを通りかかりました。
 中将は親切な人だったので、鉢かづきを家に連れて帰って、ふろたき女にすることにしました。
 この中将には、四人の男の子がいます。
 上の三人は結婚していましたが、一番下の若君には、まだお嫁さんがいませんでした。
 心のやさしい若君は、鉢かづき姫が傷だらけの手で水を運んだり、おふろをたいたりするのを見てなぐさめました。
「しんぼうしなさい。きっと、よい事があるからね」
「はい」
 鉢かづき姫は、どんなにうれしかったことでしょう。
 こんなにやさしい言葉をかけられたのは、お母さんが死んでから初めてです。
 それから、何日か過ぎました。
 若君は、お父さんの前へ出ると、
「父上。わたしは、あの娘と結婚しようと思います。しんぼう強く、心のやさしいところが気にいりました」
と、言ったのです。
 もちろん、お父さんの中将は反対です。
「ならん! あんな、ふろたき女など!」
「いいえ! あの娘は素晴らしい女性です。あれほどの娘は、他にはいません!」
「素晴らしい? 他にはいないだと? ・・・よーし、では嫁合わせをしようではないか。兄たちの嫁と、あの鉢かづきを比べようではないか」
 三人の兄の嫁は、とても美しい娘です。
 こうすれば、鉢かづき姫は恥ずかしくて、自分からどこかへ行ってしまうだろうと考えたのです。
 さて、いよいよ嫁合わせの夜がきました。
 鉢かづき姫は思わず手を合わせて、長谷寺のほうをおがみました。
「お母さま。観音さま。今夜、嫁合わせがあります。お兄さま方のお嫁さんは、とても美しい姫君たちと聞きます。わたしのような鉢かづきが出て行って、いとおしい若君に恥をかかせるくらいなら、いっそこのままどこかへ・・・」
 そのときです。
 今までどうしてもはずれなかった頭の木鉢が、ポロリとはずれたのです。
 鉢の下からは、かがやくばかりの姫が現れました。
 そして鉢の中からは、金・銀・宝石があとからあとからこぼれ出ました。
 そこへ現れた若君が言いました。
「やはり、あなたは素晴らしい娘だ。さあ、美しい姫よ、嫁合わせにいきましょう」
 屋敷の中では、三人の兄たちの美しく着飾った姫たちがならんでいます。
 そこへ鉢かづき姫が、ニコニコと笑いながら現れました。
「おおーっ」
 お父さんの中将が思わず声をあげたほどの、まぶしいばかりの美しさです。
 中将は鉢かづき姫の手をとって自分の横にすわらせると、若君にいいました。
「まったく、お前のいうとおり素晴らしい娘だ。この娘を妻とし、幸せにくらすがよい」
「はい、父上!」
「ありがとうございます。お父さま」
 それから若君と姫は、仲むつまじく暮らして、二人の間には何人かの子どもも生まれました。
 あるとき、鉢かづき姫が長谷寺の観音さまにお参りをしたときのことです。
 本堂の片すみで、みすぼらしい姿のお坊さんに会いました。
 そのお坊さんの顔を見て、鉢かづき姫はびっくり。
「まあ、お父さまではありませんか」
「姫、姫か!」
 二人は抱きあって、数年ぶりの再会を喜びました。
 すっかり落ちぶれて、あたらしい奥さんにも見捨てられたお父さんは、鉢かづき姫を追い出した事を後悔して、旅をしながら鉢かづき姫を探していたのです。
「すまなかった。本当にすまなかった」
 泣いてあやまるお父さんに、鉢かづき姫はにっこりほほえみました。
「いいえ。いろいろありましたが、今はとても幸せなのですよ」
 それからお父さんは鉢かづき姫のところにひきとられ、しあわせに暮らしました。

おしまい

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