日本のとんち話 第8話 
         
          
        イラスト たつよ   提供 らくがきの日常 
         
ふたを取らずに 
一休さんのとんち話 → 一休さんについて 
      
       むかしむかし、一休さん(いっきゅうさん)と言う、とんちで評判の小僧さんがいました。 
           
         ある日の事、お金持ちの加平(かへい)さんが『ごちそうをしますから』と、一休さんを家に呼びました。 
         一休さんが喜んで加平さんの家に行ってみると、おぜんにはたくさんのごちそうが並んでいました。 
        
       「これはすごい。では、いただきます」 
         一休さんがおはしを持って、おわんのふたを取ろうとした時です。 
        
       「一休さん。そのおわんは、ふたを取らないで食べて下さい」 
        と、加平さんが一休さんに言ったのです。 
         それを聞いた一休さんは、ピーンと来ました。 
        
       (ははーん。わたしのとんちを、試そうとしているのだな) 
         一休さんはニッコリ笑うと、 
        「では、お汁はあきらめて、他のごちそうをいただきましょう」 
        
       と、おわんには手をつけずに、他のごちそうだけを食べていきました。 
         すると加平さんは、 
        「一休さん。 
         そのおわんには、本当においしいお汁が入っています。 
        
        是非とも、召し上がって下さい」 
        と、言うのです。 
         そこで一休さんは、こう言いました。 
        「せっかくのお汁も、すっかり冷めてしまいました。 
        
        すみませんが、おわんのふたを取らないで温かい物と取り替えて下さい」 
        「・・・・・・」 
         おわんのふたを取らずに、中のお汁を取り替える事は出来ません。 
         でもそれを言うと、『そのおわんは、ふたを取らないで食べて下さい』と言った、加平さんの言葉が間違っていた事になります。 
         これを聞いた加平さんは思わず手を打って、一休さんに頭を下げました。 
        「いや、これは参りました。 
         あなたは、うわさ通りのとんちの持ち主ですなあ。 
         おわんの中身は、ふたを取って温かい物と取り替えてきますので、どうぞ一休さんも、ふたを取って召し上がってください」 
   
         この事がみんなに知れ渡り、一休さんのとんちはますます評判(ひょうばん)になりました。 
      おしまい 
         
         
        
       
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