| 日本のわらい話 第1話
 
 
  イラスト 柴田伸子
 
 頭の池
  むかしむかし、あるところに、どうにも貧乏な男がいました。 
  「人並みに暮らしたいなあ。・・・そうだ、観音様(かんのんさま)にお願いしてみよう」 
   男が村の観音様に通って、お参りを続けていると、ある晩、観音様が現れて、「いいだろう。お前の願い、叶えてしんぜよう。夜が明けたらお宮の石段を降りていって、最初に見つけた物を拾い、それを大事にしなさい」
 と、告げました。
 やがて男が石段を降りて行くと、何か落ちています。
 「ははん。これだな」
 拾いあげると、それはカキのタネでした。
 
  「何だ、こんな物か」男は捨てようかと思いましたが、せっかくお告げをもらったのですから粗末に出来ません。
 ありがたくおしいただくと、これは不思議。
 
   カキのタネが男のひたいにピタッと張り付いて、取ろうにも取れません。「まあいい、このままにしておこう」
 すると間もなく、カキのタネから芽が出て来ました。
 
   芽はズンズン伸びて、立派な木になりました。男がたまげていると、カキの木は枝いっぱいに花をつけ、花が終わると鈴なりに実をつけました。
 
  「うまそうだな。試しに食べてみよう」男が食べてみると、甘いのなんの。
 男はさっそく、町へカキを売りに行きました。
 「頭にカキの木とは、珍しい」
 「おれにもくれ」
 「おれもだ」
 カキは、飛ぶ様に売れました。
 男はお金をふところにホクホク顔でしたが、面白くないのは町のカキ売りたちです。
 「おれたちの商売を、よくも邪魔したな!」
 男を囲んで袋叩きにすると、頭のカキの木を切り倒してしまいました。
 「ああ、もう、金もうけ出来ない・・・」
 
   男がしょげていると、切り倒されたカキの木の根元に、カキタケという、珍しいキノコが生えてきました。 
   おいしいキノコなので男が売りに行くと、これまた飛ぶ様に売れました。面白くないのは、町のキノコ売りたちです。
 「おれたちの商売が、あがったりだ!」
 男を囲んで袋叩きにすると、カキの木の根元を引っこ抜いてしまいました。
 
   男は、ガッカリです。頭には、大きなくぼみが出来てしまいました。
 やがてこのくぼみに雨がたまって、大きな池が出来ました。
 「こうなったらいっその事、池に身投げをして死んでしまいたい」
 男がなげいていると、頭の池でパチャンとはねるものがありました。
 手に取ってみると、大きなコイです。
 頭の池にはいつしか、コイやらフナやらナマズやらが育っていたのです。
 
   男は頭の池の魚を売りに行って、またまたお金をもうけましたが、町の魚売りたちはあきれて、ポカンとながめているだけでした。 おしまい   
 
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